AI概要
【事案の概要】 貨物自動車運送業を営む被告との間で労働契約を締結し集荷・配達業務に従事していた原告ら(正社員およびアルバイトを含む16名)が、被告に対し未払割増賃金と労基法114条所定の付加金の支払を求めた事案である。被告の賃金制度では、集配職の能率手当について、業務結果(取扱重量、件数等)から算出される「賃金対象額」が時間外手当Aの額を上回る場合に、その超過差額を能率手当として支給する仕組み(本件計算方法)が採用されていた。原告らは、賃金対象額から時間外手当A相当額を控除して能率手当を算定する方法は、形式的に割増賃金を支払う体裁を取りながら実質的には同額を能率手当から差し引くものであり、残業をしても賃金総額が増えず、労基法37条の趣旨に反すると主張した。 【争点】 主たる争点は本件計算方法の有効性であり、具体的には、①時間外手当Aが現実に支払われたといえるか、②通常の労働時間の賃金と労基法37条所定の割増賃金に当たる部分とが明確に区分されているか(明確区分性)、③本件計算方法が労基法37条の潜脱に当たるか、④公序良俗に反し無効か、という4点に整理された。 【判旨】 大阪地方裁判所は、原告らの請求をいずれも棄却した。裁判所はまず、時間外手当Aと能率手当はそれぞれ独立の賃金項目として支給されており、本件計算方法はあくまで能率手当の算出過程にすぎないとして、被告は現実に時間外手当Aを支払っていると認定した。労基法37条は通常の労働時間の賃金の定め方を規律していないから、賃金体系の設計は公序良俗に反しない限り労使自治に委ねられる。能率手当は出来高払制賃金として労働効率性を反映させるための調整を行うことに合理性があり、同条の潜脱には当たらないとした。また、能率手当を含む基準内賃金が通常の労働時間の賃金に、時間外手当A・B・Cが割増賃金に該当することが明確に区分されているため、明確区分性も肯定された。さらに、最高裁平成29年2月28日判決(いわゆる国際自動車事件第一次上告審)を引用し、出来高から割増賃金相当額を超える部分を通常賃金とする定めが当然に無効となるわけではないとして、公序良俗違反も否定した。結論として本件計算方法は有効であり、未払割増賃金は存在しないと判示した。出来高払制下における割増賃金と成果主義賃金の設計自由度を示した実務上重要な判断である。