AI概要
【事案の概要】 被告人は、空調・給排水衛生設備の配管工事等を業とする株式会社Aの総務課長として資金管理等の経理業務に従事していた者である。被告人は、平成25年3月末頃から平成28年2月末頃にかけての約3年間にわたり、計30回に及ぶ行為により、会社代表者名義で振り出された小切手合計28通(額面合計6250万円)を銀行支店に呈示して現金化し、業務上預かり保管中の現金合計5900万円を、自己の外国為替証拠金取引(FX)口座等へ振込入金して着服・費消した。被告人の供述によれば、同様の横領行為は約10年間にわたり繰り返されていたという。犯行発覚後、被告人は解雇され、3件の公訴事実につき業務上横領罪として起訴された。検察官の求刑は懲役5年であった。 【判旨(量刑)】 本判決は、被告人を懲役3年6月に処し、未決勾留日数中120日を刑に算入した。 不利な事情として、まず被害額が5900万円と多額に及び、約10年にわたり同種行為が繰り返されていたとされることから、実質的な被害額は更に多額に上る可能性があると指摘した。被害弁償は737万円余にとどまり、被告人が犯行を重ねる中で密かに補てんした金額を考慮しても実質被害額に遠く及ばず、今後実質的な被害弁償がされる見込みは極めて薄いと評価した。犯行態様についても、上司らからの厚い信頼を悪用し、長期間にわたって常習的に横領を繰り返したものであり、動機も私的な投機行為(FX取引)による損失の穴埋めという利欲目的の強いものとして、悪質性が高いと判断した。「利益が出れば補てんする意思であった」との弁解は、この種事案に及ぶ者の意思として一般的であり、特に有利に考慮すべきものではないとされた。 他方、有利な事情として、被告人が本件を率直に認めて反省し、社会復帰後まじめに働いて被害弁償をする旨誓約しており、その態度が真摯と認められること、前科がないこと、まじめな勤務態度ゆえに若くして総務課長の地位にあったが、本件発覚により解雇され妻とも離婚するに至り社会的制裁を一定程度受けたと評価できることを考慮した。 以上を総合し、被害額が高額に上る悪質事案として相応の実刑は免れないとしつつ、有利な事情を踏まえて主文の刑を量定したものである。企業経理担当者による長期・多額の業務上横領事案について、被害回復の見込みと利欲的動機を重視しつつ、反省や社会的制裁を相応に斟酌した実務的な量刑判断として参考になる。