特許権侵害行為差止等請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 発明の名称を「シール付き印刷物及びその製造方法」とする特許権(特許第5773395号)を有する原告(印刷業等を営む株式会社ウイル・コーポレーション)が、被告(光村印刷株式会社)に対し、被告が製造・譲渡した「飛び出す始祖鳥ぬりえシールブック」(本件シールブック)及び本体ブックの2冊組印刷物が本件特許の請求項1の発明の技術的範囲に属し、またその製造方法が請求項4の発明の技術的範囲に属すると主張して、特許法100条1項・2項に基づき製造・譲渡等の差止めと廃棄、民法709条・特許法102条2項に基づき損害賠償金220万円及び遅延損害金の支払を求めた事案である。本件特許発明は、シールと台紙が一体となった印刷物であり、紙本体の一箇所を折り重ねることでシール領域を形成し、起立用折目と粘着部・非粘着部を備えた起立シールを有する点に特徴がある。 【争点】 被告製品(本件シールブック)が「台紙」「台紙領域」「紙本体」の各構成要件を充足するか、特に「折り重ねることによって形成」されるシール領域の要件を文言上又は均等論により充足するかが主要な争点となった。被告は、本件シールブック内のシールは本体ブックに貼ることが想定されており台紙機能を有しないこと、及び本件シールブックは1枚の紙を折り重ねた構造ではなく2枚の紙を貼り合わせた構造であることを主張した。併せて乙2号証(服薬チェック用シール台紙)及び乙5号証を主引例とする進歩性欠如の特許無効主張も争点となった。 【判旨】 東京地裁は原告の請求をいずれも棄却した。まず「台紙」とは剥がしたシールを貼り付ける土台となる紙部分であり、台紙として利用するための印刷が施されたものを意味すると解したうえで、本件シールブックはシールを貼り付ける土台として利用するための絵柄等の印刷を有しておらず、むしろ裏表紙の説明からシールは本体ブックに貼り付けることが予定されていると認定し、「台紙」「台紙領域」の充足を否定した。さらに「紙本体」についても台紙となる印刷が施されていない以上充足しないとした。「折り重ねる」の解釈については、特許請求の範囲の文言及び明細書の実施例に照らし、紙本体の一部を折って1枚の紙本体を重ねる構造を意味すると限定解釈し、2枚の紙を貼り合わせた本件シールブックは文言侵害を構成しないと判断した。均等侵害についても、紙本体を折り重ねてシール領域を形成する構成は容易製造という課題解決のための従来技術に見られない特徴的部分であり本質的部分に当たるとして、均等の第1要件を充足しないとした。本件は、プロダクト・バイ・プロセス性を帯びる構成要件の解釈と均等論における本質的部分認定において、明細書の実施例及び課題記載から特徴的部分を厳格に画定した事例として、実務上の意義を有する。