AI概要
【事案の概要】 金地金の売買等を目的とするD株式会社の実質的経営者である被告人A、内勤業務全般を担当していた被告人B、営業部長であった被告人Cの3名が共謀し、同社が行っていた金地金割賦販売契約の頭金名目で、6名の顧客から現金を騙し取ったとされる詐欺事件である。同契約は、顧客が頭金と月々の分割代金を支払い、完済時に金地金の引渡しを受ける建前であったが、顧客の希望により契約締結時と中途解約時の価格差に基づく差金決済が可能とされていた。実態としては、中途解約による差金決済が顧客にとっての主たる動機であり、同社のセールスポイントでもあった。しかし、D社は平成25年5月以降恒常的に赤字で、平成28年6月時点で損益累計赤字額は約9736万円、未払精算金は約1億2948万円に達する一方、預金残高は総額約4万円に過ぎず、金地金の現物も一切保有していなかった。被告人らは、このような破綻状態にあることを秘し、中途解約時の差金決済金の支払等が約定どおり確実に受けられるかのように装って勧誘を続け、6名の顧客から合計約4800万円を詐取した。 【争点】 各被告人は顧客を騙す意図はなかったと供述し、弁護人らは欺罔行為・故意・共謀のいずれも認められないと主張した。特に被告人B・Cについては正犯意思の有無も争点となった。判決は、D社の財務状況が平成28年6月時点で客観的に破綻しており、精算金の支払や金地金の引渡しを約定どおり行うことが不可能であった以上、当該約定を前提とする勧誘行為は虚偽の説明に基づく欺罔行為に該当すると判断した。故意については、実質的経営者である被告人Aは当然認識していたと認定し、経理業務を通じて自転車操業の実情を認識せざるを得ない立場にあった被告人B、営業統括として入金状況や未払精算金の累積を把握し「会社に資金が全くない、自転車操業」と発言していた被告人Cについても、少なくとも未必的認識があったと認めた。正犯意思についても、B・Cは給与を得て生計を維持し、本件詐欺の遂行に欠かせない重要な役割を果たしたとして肯定された。 【判旨(量刑)】 名古屋地裁は、被告人Aを懲役6年、被告人Bを懲役3年6月、被告人Cを懲役3年に処した。被害総額が4000万円を超え、弁償の目処も立たないこと、犯情が悪質であることを指摘した上で、実質的経営者として主導的役割を果たした被告人Aの刑責は他の被告人と一線を画すと評価した。被告人B・Cはいずれも被告人Aの指示に従う立場であったが、それぞれ内勤の中核・営業統括として重要な役割を果たしたとして相応に重い刑責を認めた。もっとも被告人Cについては、入社時に既に財務状況が悪化しており、被告人Aの強引な指示の下で勧誘業務に邁進せざるを得なかった面があること、当初の故意が未必的にとどまっていた余地があることを量刑上考慮した。前科がないことや家族の支えなど酌むべき事情も踏まえ、求刑(A懲役7年、B懲役5年、C懲役4年6月)より減じた各主文の刑を相当とした。