AI概要
【事案の概要】 本件は、「情報管理方法、情報管理プログラム、及び情報管理装置」と題する特許(本件特許)を有する原告が、被告(ソフトバンクロボティクス株式会社)に対し、特許権侵害を理由に損害賠償を求めた事案である。原告は、被告が自社のヒューマノイドロボット「Pepper」や「Nao」向けに提供しているアプリ開発用ソフトウェア「Choregraphe(コレグラフ)」が、本件特許の請求項14に係る発明の技術的範囲に属すると主張した。本件発明は、ノードを樹木状に配置し、各ノードに紐付く変数データを「代入用スクリプト」によって更新することで、相互に関連する情報を効率的に管理する仕組みをその中核とする。原告は、平成27年6月から平成29年3月までの期間の侵害分として、民法709条に基づき約3億4915万円の損害賠償及び遅延損害金の支払を請求した。 【争点】 争点は、被告プログラムが本件発明の技術的範囲に属するか(構成要件の充足性)、本件特許が無効審判により無効とされるべきものか、損害の有無及び額の3点である。特に技術的範囲の帰属に関しては、フローダイアグラム上で結合されるボックスが本件発明の「木構造」及び「ノードデータテーブル表示ステップ」に該当するかが主要な争点となった。 【判旨】 東京地裁は、原告の請求を棄却した。裁判所は、本件明細書等の記載から、「木構造」とはルートから枝分かれする階層構造であって閉路を含まない表示概念を指すと解釈した上で、被告プログラムにおいてボックス間の接続関係を検討した。被告プログラムの「Sayボックス」は、onStartコネクタから出発して同一ボックスのonStoppedコネクタに戻る接続関係を有しており、両コネクタとも同一ボックスの構成要素であるから、ボックス間の接続は結局「Sayボックスから出発してSayボックスに戻る閉路」として表示されていると認定し、木構造の要件を欠くと結論付けた。さらに「ノードデータテーブル表示ステップ」についても、本件発明にいう「ノード変数データ」は変数の値を意味し、かつ上位ノード変数データと自ノード変数データを一覧表として同時表示することを要するところ、被告プログラムのインスペクタ表示はコネクタ名や自ノード変数を表示するにとどまり、この要件も充足しないとした。以上から、特許の無効論や損害論に踏み込むまでもなく、被告プログラムは本件発明の技術的範囲に属さないと判断された。ソフトウェア特許におけるクレーム解釈、殊に「木構造」のような図形的・構造的概念を閉路の有無という観点から厳密に捉えた実務上意義のある判断である。