意匠権侵害差止等請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 原告は、加熱式電子タバコ「IQOS」用の電子タバコケースについて意匠権(登録第1557315号、物品は「電子タバコケース」)を保有する株式会社であり、自らも本件意匠の実施品である「iQOS Case」をインターネットで販売していた。被告は、装飾装身具等を扱う有限会社で、別途IQOS用のケース(被告各製品、6種類)を製造・販売していた。原告は、被告各製品が本件意匠に類似し、本件意匠権を侵害するとして、意匠法37条1項・2項に基づく被告各製品の製造販売の差止め及び製品・半製品の廃棄等を求めるとともに、不法行為に基づき損害賠償として約1077万円及び遅延損害金の支払を請求した。 【争点】 主な争点は、(1)被告意匠が本件意匠に類似するか、(2)本件意匠が意匠登録無効審判により無効にされるべきものか、(3)被告に先使用権(意匠法29条)が成立するか、(4)原告の損害額、の4点である。とりわけ類否判断における要部の認定と、本件意匠の登録出願前から被告が独自に被告意匠を創作・準備していたといえるかが中心的争点となった。 【判旨】 大阪地裁は、まず類否について、意匠の需要者である電子タバコ使用者が正面視を重視する点を踏まえ、各収納部がタバコパッケージと携帯用充電器の幅・高さとほぼ同じで全体が無駄のない細身の長方形をなし、背面上端を正面中心部まで伸長させた幅の均一な細いベルトを備える点に、引用意匠3ないし9には見られないスマートでシンプルな印象を与える主たる要部があると認定した。そのうえで、被告意匠もこれらの特徴を共通に備え、各収納部の底部位置や開口部位置の相違は副次的にとどまるとして、本件意匠と被告意匠は類似すると判断した。 しかし先使用権については、被告代表者の陳述・証拠から、被告は本件意匠の出願日(平成28年6月20日)より前の同年5月上旬には中国の協力会社との打合せ等を経て被告意匠を独自に創作し、サンプル製作を発注するなど日本国内での販売に向けた事業の準備を行っていたと認定し、本件意匠を知らずに被告意匠を創作したとして、意匠法29条の先使用による通常実施権の成立を認めた。そして被告各製品はいずれも準備していた被告意匠及び事業目的の範囲内にあるから、被告による被告各製品の販売は本件意匠権を侵害しないとして、原告の請求をいずれも棄却した。本判決は、類似性が認められる場合でも先使用権の成立により侵害責任が否定されうることを示し、意匠の独自開発過程の立証の重要性を浮き彫りにした事例である。