原発運転差止仮処分命令申立事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 京都府南丹市に居住する債権者が、関西電力(債務者)の設置する大飯原子力発電所3号機・4号機について、原子炉等規制法が求める安全性を欠いており、事故発生により生命・身体・健康等の人格権が侵害される具体的危険が存在すると主張し、人格権に基づく妨害予防請求権を被保全権利として、本件原発の運転差止めを求めた仮処分命令申立事件である。債務者は平成29年5月24日に原子力規制委員会から新規制基準への適合性を認める設置変更許可を受けていたが、債権者は、基準地震動の策定において債務者が用いた「入倉・三宅式」(震源断層面積から地震モーメントを求める関係式)が地震規模を過小評価するおそれがあり、審査過程に不合理な点があると主張した。 【争点】 争点は、(1)発電用原子炉施設の運転差止めを求める訴訟における司法審査の在り方(主張疎明責任の分配)、(2)入倉・三宅式を用いるレシピ(ア)の方法により策定された本件基準地震動の審査基準適合性判断の合理性、特に垂直断層について過小評価のおそれが指摘されるなかでレシピ(イ)の方法を併用しなかった本件適合性審査の合理性、(3)保全の必要性である。 【判旨】 裁判所は、まず司法審査の在り方について、原子力規制委員会が策定した安全基準は社会通念上求められる安全性を具現化したものと位置付け、同委員会の適合性判断に不合理な点又は看過し難い過誤・欠落がない限り安全性は具備されているといえるとし、主張疎明責任は債権者が負うのが原則であるが、具体的審査基準の合理性及び適合性判断の合理性については、関連資料を有する事業者(債務者)にまず主張疎明を尽くさせ、これを尽くさない場合には具体的危険の存在が事実上推定されると判示した。 そのうえで本件基準地震動について、債務者が既存文献より断層長さを長く評価し、FO-A〜FO-B〜熊川断層を3連動で評価し、断層傾斜角75度のケースも想定するなど、震源断層面積の過小性を回避する方策が重畳的にとられており、短周期レベルをレシピ平均の1.5倍とするなど他の震源パラメータにも保守的考慮がなされていることから、レシピ(ア)の方法の適用が不適切とはいえないと判断した。また、平成28年12月のレシピ修正は表現の微修正にとどまり、レシピ(ア)の方法自体の合理性を否定するものではなく、レシピ(イ)の方法の併用を一律に要求する趣旨とは読めないとした。 以上から、本件適合性審査において原子力規制委員会の判断に不合理な点又は看過し難い過誤・欠落があるとは認められず、本件原発に具体的危険があることの疎明はないとして、被保全権利を欠くとして本件申立てを却下した。福島第一原発事故後に新設された新規制基準の司法審査の枠組みを示し、地震動評価の科学的論点に踏み込んだ原発差止仮処分決定として、実務上重要な意義を有する。