特許権侵害差止等本訴請求,損害賠償反訴請求控訴事件
判決データ
- 事件番号
- 平成30ネ10024
- 事件名
- 特許権侵害差止等本訴請求,損害賠償反訴請求控訴事件
- 裁判所
- 知的財産高等裁判所
- 裁判年月日
- 2019年3月28日
- 裁判官
- 大鷹一郎、古河謙一、関根澄子
- 原審裁判所
- 東京地方裁判所
AI概要
【事案の概要】 本件は、「螺旋状コイルインサートの製造方法」に関する特許権(本件特許権)の特許権者である1審原告(日本スプリュー株式会社)が、1審被告(株式会社アドバネクス)によるタングレス螺旋状コイルインサートの製造方法が本件特許権を侵害するとして、特許法100条に基づき方法の使用差止め及び製品の廃棄を求めた本訴請求と、これに対し1審被告が、本件特許は冒認出願による無効理由があり、かつ1審被告は先使用権を有するにもかかわらず、1審原告がそれを知りながら本訴を提起・追行した行為は不法行為に当たるとして、弁護士費用等2000万円の損害賠償を求めた反訴請求が併合された事案の控訴審である。原審は本訴を全部棄却し、反訴については550万円の限度で認容したところ、双方が控訴した。 【争点】 主要な争点は、①本件特許が冒認出願に基づくもので無効理由を有するか(1審被告従業員らが真の発明者か、また1審原告代表者の発明者性)、②先使用権・進歩性欠如等の無効抗弁の成否、③本訴の提起及び追行が不法行為を構成する違法な行為といえるか、④反訴において賠償されるべき損害額(弁護士費用等の相当因果関係の範囲)である。 【判旨】 知財高裁は、1審被告が昭和61年ころに設計・稼働させた製造機「FCM-A」等の設計図面及び稼働状況の動画等から、1審被告従業員らがその時点で本件発明の技術的思想を着想しその具体化に創作的に関与したと認定し、1審被告は昭和62年ころまでに発明者から特許を受ける権利を承継したと判断した。他方、1審原告代表者については、発明の着想時期や経緯、出願依頼の状況に関する主張が原審と当審で大きく変遷したことなどから、その供述は措信できず、本件発明の創作に関与した事実を認めるに足りる証拠はないとし、本件特許は特許法123条1項6号の冒認出願の無効理由を有するから、同法104条の3第1項により本件特許権の行使はできないとして本訴請求を棄却した。 反訴については、最高裁昭和63年1月26日判決等の示す訴え提起の違法性判断基準(提訴者の主張が事実的法律的根拠を欠き、そのことを知り又は容易に知り得たのにあえて提訴したなど、裁判制度の趣旨目的に照らし著しく相当性を欠く場合に限り違法となる)を適用し、1審原告は本訴提起前に冒認出願の指摘を受けていたこと、その後の主張変遷等に照らし、権利の根拠を欠くことを知り又は容易に知り得たのにあえて提訴・追行したもので違法であると認定した。損害については、1審被告が実際に負担した弁護士・弁理士費用約3741万円のうち、本訴応訴分として300万円、反訴分として30万円、合計330万円を相当因果関係のある損害と認め、その限度で反訴を認容した。 本判決は、特許侵害訴訟において冒認出願を理由に特許権行使が否定されただけでなく、提訴行為自体が不法行為に該当するとされ、しかも賠償額の算定にあたり最高裁昭和44年2月27日判決の示す「諸般の事情を斟酌した相当額」の枠組みに従い、実額の一部のみを相当因果関係の範囲とした点で、特許訴訟の濫用的提起に対する歯止めと、賠償範囲の実務的指針を示した事例として意義を有する。