商標権侵害差止請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 原告は、「ABCカイロプラクティック」(標準文字)を第44類のあん摩・マッサージ・指圧・整体の施術・カイロプラクティック等を指定役務とする登録商標(登録第5995186号、出願日平成29年3月21日、登録日同年11月10日)として保有する整体院経営者である。本件は、原告が、「ABCカイロプラクティックセンター乙地整体院」の名称で整体院を営む被告が、看板・ウェブサイト・施術着・外壁ガラス面等に被告標章1-1ないし7(「ABCカイロプラクティックセンター」「ABCカイロ」「CHIROPRACTIC」等を含む各種表示)を使用していることが原告商標権を侵害すると主張し、商標法36条1項・2項に基づく使用差止め、看板等からの標章抹消・広告物等の廃棄、及び不法行為に基づく損害賠償金90万円と遅延損害金の支払を求めた事案である。なお、本件には先願に係る他人の登録商標として、Aを商標権者とする「ABC」(標準文字、登録第5877163号、出願日平成28年6月7日、登録日同年8月26日、指定役務にカイロプラクティック等を含む)が存在していた。 【争点】 主な争点は、(1)原告商標と被告各標章の類否、(2)商標法4条1項11号該当を理由とする無効の抗弁(先願引用商標との類似)、(3)同項16号該当(役務の質の誤認)を理由とする無効の抗弁、(4)同項10号該当(周知商標)を理由とする無効の抗弁、(5)被告の先使用権の有無である。とりわけ、原告商標「ABCカイロプラクティック」のうち「ABC」部分を分離・要部として抽出し、先願「ABC」との類否を判断することの可否が中核的争点となった。 【判旨】 東京地方裁判所民事第40部(佐藤達文裁判長)は、事案に鑑み無効の抗弁(争点(2))から先に検討し、原告の請求をいずれも棄却した。結合商標の類否判断については、最高裁昭和43年2月27日判決、平成9年3月11日判決等を引用し、構成部分の一部抽出による対比は原則として許されないが、当該一部が出所識別標識として強く支配的印象を与える場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼・観念が生じない場合には許される旨の規範を確認した。そのうえで、原告商標の「カイロプラクティック」部分は指定役務との関係で役務の種類・内容を表示するにすぎず、「手技によって脊椎のゆがみを矯正し、神経生理機能を回復する方法」等の意味を有する一般的・普遍的な語であって、出所識別標識としての称呼・観念を生じないと認定した。他方、「ABC」部分はアルファベット冒頭三文字として需要者に馴染みがあり「初歩・基本・いろは」との観念も生じ、指定役務の内容を具体的に表すものでもないから、需要者に対し役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えると認め、同部分を要部として抽出することは許されると判示した。そして、原告商標の要部「ABC」と引用商標「ABC」とは外観・観念・称呼のいずれも同一であり、両商標が同一又は類似の役務(両者の指定役務が同一又は類似である点は争いがない)に使用される場合には出所について誤認混同を生ずるおそれがあるとして、原告商標は商標法4条1項11号に該当し、商標登録無効審判により無効とされるべきものであるから、原告は商標法39条・特許法104条の3第1項の趣旨に則り権利を行使することができないと結論付けた。よって、その余の争点について判断するまでもなく原告の請求はいずれも理由がないとして棄却された。本判決は、役務の内容を直接表示する普通名称的部分と識別力を有する冠頭部分とが結合した役務商標について、後願商標の権利行使が先願商標との関係で遮断される典型例を示すものであり、商標登録に当たり先願の簡潔な識別標章との関係を慎重に調査することの実務的重要性を再確認させる意義を有する。