損害賠償請求控訴事件
判決データ
- 事件番号
- 平成29ネ4726
- 事件名
- 損害賠償請求控訴事件
- 裁判所
- 東京高等裁判所
- 裁判年月日
- 2019年4月10日
- 裁判官
- 野山宏、橋本英史、野山宏
- 原審裁判所
- 東京地方裁判所
AI概要
【事案の概要】 本件は、第1審原告が、国土交通省本省及び関東地方整備局の公務員による国家賠償法1条違反行為によって、建設コンサルタント業務を営む株式会社地域開発研究所(RDC)の代表取締役及び取締役の辞任を余儀なくされたとして、国に対して約9397万円の損害賠償を求めた事案である。RDCは、国土交通省発注の建設コンサルタント業務の請負又は公益法人経由の孫請を業務の中心としていた会社であり、国からの直接・間接の発注が売上の大半を占めていた。第1審原告は、個人として、公益法人と国との随意契約問題の解消を訴える請願活動(A衆議院議員への資料提供を通じた平成21年2月の予算委員会質疑)を行ったほか、東京湾第2海堡の保存を訴える海堡ファンクラブの事務局長として関東地整への要望書提出等の活動を行っていた。第1審原告は、これらの活動を理由に、本省担当官がRDCへの発注中止を示唆して他の取締役を威嚇し、平成21年6月に代表取締役、平成22年9月に取締役からの辞任を余儀なくさせたと主張した。原審は請求を棄却したため、第1審原告が控訴した。 【争点】 第1は、本省及び関東地整の公務員の行為が国賠法1条の「公務員がその職務を行うについて」の違法行為に該当するか、とりわけ発注権限を持たない公務員が民間企業の役員人事に事実上介入する行為が職務の範囲に属する行為といえるかである。第2は、公務員の行為と第1審原告の取締役辞任との間の相当因果関係及び損害額の算定である。第3は、国賠法4条・民法724条による3年の短期消滅時効の起算点、すなわち第1審原告がいつ「加害者」を知ったといえるかである。 【判旨】 原判決を変更し、528万円及び平成22年9月17日から支払済みまで年5%の割合による遅延損害金の支払を命じた。 公益法人・随意契約問題については、本省職員が大臣の制裁不行使の約束に反してRDC資料の出典を調査し、発注見直しを示唆して自発的な自粛とけじめを暗に求めた行為は、法令の根拠なく民間企業の経営に介入するものとして国賠法1条に違反するが、これはRDCという企業への介入であり、第1審原告個人への賠償責任を基礎づけるには至らないとした。 他方、第2海堡問題については、関東地整港湾空港部長が「請願活動が止まないならRDCへの発注を考えないといけない」との包括的指示を発し、部下公務員等が「第1審原告の辞表を持ってこい」とB取締役を威嚇したことは、RDCの経営のみならず第1審原告個人の出処進退への介入であって、憲法16条の請願権保障(何人も請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない)を無視した違法行為であると判断した。公共事業受注に依存する中小企業が発注停止の示唆下で役員解任要求に応じてしまうのはわが国の自然な成り行きであるとして相当因果関係を肯定し、損害としては最終報酬月額40万円を基礎とする1年分の役員報酬相当額480万円と弁護士費用48万円の合計528万円のみを認容し、退職金差額と慰謝料は否定した。 消滅時効については、平成22年当時の第1審原告は発注停止をほのめかしてB取締役に圧力をかけた具体的な公務員の所属・役職を特定できず、実効性ある訴訟活動が不可能であったから、民法724条の「加害者を知った時」とはいえず、平成26年から27年にかけてのインタビュー調査終了時が起算点となると解し、平成27年10月15日の訴え提起時には時効は完成していないと結論づけた。本判決は、行政官庁が法令上の発注権限を背景として、民間企業の役員の政治的請願活動を理由に役員解任を事実上強制する行為を国賠法上違法とし、かつ国賠事件における短期消滅時効の起算点を加害公務員の具体的特定が可能となった時点まで柔軟に解した点で、実務上意義を有する。