障害基礎年金支給停止処分取消請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、1型糖尿病にり患し、障害基礎年金の受給権者として障害等級2級該当を前提に年金の支給を受けていた原告ら9名が、厚生労働大臣から支給停止処分または支給停止解除不該当処分を受けたため、これらの処分の取消しを求めた事案である。原告のうち8名は、平成28年12月7日付けで障害基礎年金の支給停止処分を受け、残る1名(原告I)は、既に支給停止処分を受けていたところ、支給停止事由消滅届を提出したにもかかわらず、同月28日付けで支給停止を解除しない旨の処分を受けた。原告Iは、上記不解除処分の取消しに加え、行政事件訴訟法3条6項2号に基づき支給停止を解除する処分の義務付けを求めた。 原告らはいずれも、初診日において20歳未満であったため、国民年金法30条の4に基づく無拠出制の障害基礎年金を受給しており、約2年から約16年という長期間にわたり、おおむね2〜3年に一度障害状態確認届を提出し、「従前の障害の状態と同程度」として受給を継続してきた経緯があった。ところが、平成28年の診断書に対する機構の認定医により一転して「厚生年金保険法施行令別表第一の障害等級3級該当」との所見が示され、本件各処分に至ったものである。処分通知書には、いずれも「障害の程度が厚生年金保険法施行令に定める障害等級の3級の状態に該当したため」ないし「国民年金法施行令別表に定める程度に該当していない」とのごく簡素な理由のみが記載されていた。 【争点】 主たる争点は、(1)本件各支給停止処分および本件不解除処分につき、行政手続法14条1項本文(不利益処分)または同法8条1項本文(申請拒否処分)の定める理由提示義務の違反があるか、(2)支給停止事由(障害等級2級該当性の喪失)の存否、(3)原告Iに関する義務付けの訴えの可否、である。被告は、年金処分が大量であること、障害認定基準が111頁に及び個別具体的な適用関係の明示が困難であることを理由に、通知書の定型的記載で足りると主張した。 【判旨】 大阪地裁は、原告らの請求のうち取消請求を全て認容した。まず、障害基礎年金は受給権者の生活設計の基礎をなす給付であり、支給停止処分および支給停止解除不該当処分は、受給権者の生活の安定を損なわせる重大な処分であると位置づけた。その上で、根拠法令である国民年金法施行令別表の障害等級の定め(「日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度」等)が抽象的であること、処分基準として公表された国民年金・厚生年金障害認定基準も、糖尿病による障害に関しては3級の認定基準のみが具体的で、2級以上については「さらに上位等級に認定する」として考慮要素を列挙するにとどまり総合評価の重み付けが示されていないことを指摘し、いかなる事実関係に基づきどのように障害認定基準を適用して処分がされたのかを、処分の相手方においてその理由の提示内容自体から了知し得るものとする必要性が高いと説示した(最三小判平成23年6月7日民集65巻4号2081頁参照)。 そして本件各処分の理由は、単に障害の程度が1級および2級に該当しないとの結論のみを示したに等しく、症状、検査成績、具体的な日常生活状況等のいかなる点をもって2級該当性を否定したのかが全く示されておらず、約2〜16年にわたり同程度と認めてきた従前の取扱いから一転した経緯に照らしても、行政庁の恣意抑制および不服申立ての便宜の趣旨を全うしていないと判示した。被告の大量処理論については、支給額変更通知書の大部分が糖尿病による支給停止とは関係のない事由であること、診断書様式に既に一般状態区分表や合併症、日常生活・労働能力の項目があり認定医意見も障害状態認定調書に記載されていることなどを挙げ、診断書記載事実を前提としたか否かや障害状態認定調書の意見等を引用する形で一定程度具体的な理由を書面交付することは困難ではなく、定型化には自ずから限界があると退けた。 結論として、本件各支給停止処分および本件不解除処分は、いずれも行手法14条1項本文ないし8条1項本文の理由提示義務に違反し、その余の点を判断するまでもなく違法であるから取り消されるべきとした。他方、原告Iの義務付けの訴えについては、2級該当性の実体審理に相当の期間を要すること、取消判決確定後に厚生労働大臣が理由提示を充実させる過程で解除の可否を再検討する可能性もあることから、行訴法37条の3第6項前段に基づき取消請求についてのみ一部判決を言い渡し、義務付け請求に係る口頭弁論を分離する措置がとられた。本判決は、定型文言のみによる年金支給停止処分の運用に警鐘を鳴らし、受給権者の生活保障に直結する処分について、診断書記載事項や認定医意見の引用を含む具体的な理由提示を求めた実務上重要な裁判例である。