損害賠償請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、歯科技工士として被告の開設するC歯科医院に勤務していた亡Dが、平成26年4月8日に自動車内で練炭を燃やし一酸化炭素中毒により自殺したことについて、亡Dの父母である原告らが、被告歯科医院における過重な労働等により亡Dが精神疾患に罹患し自殺に至ったと主張して、主位的に不法行為、予備的に債務不履行(安全配慮義務違反)に基づき、各原告につき2549万2279円の損害賠償及び遅延損害金の支払を求めた事案である。亡Dは平成元年4月に被告歯科医院に就職し、死亡時まで約25年間勤務していた唯一の歯科技工士であり、大牟田労働基準監督署長は、平成27年7月24日付けで、亡Dの死亡を業務上の死亡と認定し、遺族補償年金等の支給を決定していた。 【争点】 争点は、(1)亡Dの業務の過重性及び業務と死亡との間の因果関係、(2)被告の安全配慮義務違反の有無、(3)原告らに生じた損害の額、(4)過失相殺の可否である。特に、被告は従業員の労働時間をタイムレコーダー等で客観的に把握しておらず、亡Dの労働時間をいかに認定するかが重要な争点となった。また、被告は、亡Dが診療時間外に居眠りをしていた事実があること等を根拠に、業務に従事していたものではないと反論した。 【判旨】 裁判所は、被告歯科医院の警備会社による開錠・施錠記録に基づいて亡Dの労働時間を推認するのが相当と判断し、亡Dが全従業員の中で最初に出勤し最後に帰宅して被告歯科医院の鍵を預けられていたこと、義歯・補綴物の製作に相当の時間を要すること、亡Dは業務の処理速度が遅くやり直しも多かったこと等を踏まえ、診療時間外も基本的に業務に従事していたと認定した。これにより亡Dの時間外労働時間は死亡前1か月で145時間47分、死亡前2か月で157時間35分等、恒常的に長時間労働であったと認め、これに日常的な叱責、基本給10万円への引下げ、割増賃金の未払、被告の妻の指示による300万円の借入れ等の事情を加え、亡Dの業務とうつ病発症・自殺との間に相当因果関係を認めた。さらに、被告は従業員の労働時間を客観的資料に基づき把握せず、長時間労働の是正措置を講じなかったとして安全配慮義務違反を認定し、亡Dの死亡との因果関係も肯定した。過失相殺については、労働時間管理を怠った被告が、亡Dの処理速度の遅さや心療内科未受診、転職未実行を過失として主張しても相当でないとして排斥した。損害は、逸失利益2505万0636円、死亡慰謝料2000万円、葬儀費用(労災葬祭料控除後)33万0300円、原告ら固有の慰謝料各100万円を認め、遺族補償年金及び慰労金100万円を損益相殺した上で、弁護士費用を加算し、各原告につき2109万2279円の支払を命じ、その余の請求を棄却した。本判決は、労働時間管理を怠った使用者に対して警備記録から労働時間を推認し、歯科医院という小規模事業場における歯科技工士の過労自殺につき使用者の安全配慮義務違反を認めた実務上意義のある判断である。