AI概要
【事案の概要】 本件は、沖縄県宜野湾市所在の普天間飛行場(キャンプ・フォスター内、FAC6051)周辺に居住し又は居住していた住民及びその相続人計約3000名の原告らが、同飛行場において離着陸するアメリカ合衆国軍隊の航空機が発する騒音及び低周波音によって健康被害等を受けていると主張し、日米安保条約及び日米地位協定に基づき米軍に飛行場を提供している国(被告)に対して提起した、いわゆる第二次普天間爆音訴訟の控訴審である。 原告らは、①人格権に基づき、原告らの居住地域に夜間(午後7時から翌午前7時)40dBを超える騒音、昼間(午前7時から午後7時)65dBを超える騒音を到達させることの差止め、②主位的に普天間飛行場提供協定の違憲無効確認、予備的に一定レベルを超える騒音が原告らの居住地域に到達する状態を放置している被告の不作為の違憲確認、③国家賠償法2条1項又は民特法2条に基づき、過去の慰謝料及び口頭弁論終結後の将来分損害賠償を求めた。 原審(那覇地裁沖縄支部)は、騒音コンター内居住者についてW75区域は月額7000円、W80区域は月額1万3000円を基準とする慰謝料及び弁護士費用の限度で損害賠償請求を一部認容し、差止請求及び憲法上の請求は棄却・却下、将来請求は却下した。双方が控訴した。 【争点】 (1)私法上の人格権に基づく米軍機騒音の差止請求の可否(被告国に対する差止義務の有無)、(2)普天間飛行場提供協定の違憲無効確認請求及び騒音放置の違憲確認請求の適否(法律上の争訟性・確認の利益)、(3)国賠法2条1項の適用の可否及び民特法2条に基づく損害賠償の成否、(4)侵害利益(睡眠妨害・生活妨害・聴覚障害・高血圧・虚血性心疾患リスク・精神疾患・低出生体重児・子の問題行動等)の範囲と違法性(受忍限度)判断、(5)オスプレイ配備による被害拡大の評価、(6)住宅防音工事による減額の程度、(7)口頭弁論終結後に発生する損害に係る将来請求の適否が主要な争点となった。 【判旨】 原判決を変更。 まず差止請求については、米軍機の運航は日米安保条約及び地位協定に基づき米軍の管理下に置かれており、被告国は第三者である米軍の航空機運航を直接規制し得る立場にないとして、最高裁平成5年2月25日第一小法廷判決(いわゆる第一次厚木基地訴訟判決)の趣旨に従い、国に対する人格権に基づく米軍機騒音差止請求は理由がないとして棄却した。 次に提供協定の違憲無効確認請求及び騒音放置の違憲確認請求は、具体的権利義務又は法律関係に関する争訟性を欠き、あるいは確認の利益を欠くとして、いずれも不適法として却下した。 損害賠償請求については、国賠法2条1項に基づく主位的請求は、米軍が管理する施設について同条項の「公の営造物」の瑕疵を国に問擬し得ないとして棄却する一方、民特法2条に基づく予備的請求を一部認容した。その際、本件コンター内に居住し又は居住していた原告ら及びその承継人について、W75区域は1か月当たり4500円、W80区域は1か月当たり9000円を基準として慰謝料及び弁護士費用を算定し、原審(それぞれ7000円・1万3000円)より減額する判断を示した。これは普天間飛行場周辺の騒音状況が改善傾向にあること、住宅防音工事の整備状況、他の基地騒音訴訟との均衡等を踏まえた受忍限度論の適用による。 将来の損害賠償請求については、最高裁昭和56年12月16日大法廷判決(大阪国際空港訴訟)の射程の下、口頭弁論終結後に生ずべき損害の賠償を求める部分は、損害発生の基礎となる事実関係が未確定であって権利保護の要件を欠くとして、当審口頭弁論終結の翌日である平成30年9月28日以降に係る部分を不適法却下した。 本判決は、基地騒音訴訟における米軍機差止不能の枠組みを維持しつつ、損害賠償のみを民特法により認めるという従来の判例法理を踏襲したものであり、沖縄の米軍基地を取り巻く住民被害救済のあり方に関する実務上の重要な先例として位置付けられる。