AI概要
【事案の概要】 本件は、アダルトDVDの制作等を業とする株式会社を吸収合併した映像製作会社である原告が、氏名不詳の発信者が被告(KDDI株式会社)の提供するインターネット接続サービスを利用して、「FC2コンテンツマーケット アダルト」という名称のウェブサイトに原告が著作権を有する動画の一部と実質的に同一の動画をアップロードし、もって原告の送信可能化権を侵害したと主張して、プロバイダ責任制限法4条1項に基づき、アクセスプロバイダである被告に対し、当該発信者の氏名又は名称、住所及び電子メールアドレスの開示を求めた事案である。発信者情報開示請求は、匿名の発信者による権利侵害について被害者が損害賠償請求等を行うための前提手続として位置付けられており、特定電気通信による権利侵害が明らかであり、かつ開示を受けるべき正当な理由がある場合に認められる制度である。 【争点】 争点は、原告の送信可能化権が侵害されたことが明らかといえるか(争点1)及び発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか(争点2)である。争点1は、さらに原告が本件著作物の著作権を有するか(1-1)と、本件アップロードにより本件著作物の一部が送信可能化されたといえるか(1-2)に分かれる。被告は、吸収合併前の会社が著作権を有していたかは明らかでないと争い、また本件動画と本件著作物はタイトル及び動画の長さが異なり同一性が明らかでないと主張した。さらに、損害賠償請求訴訟の提起には氏名及び住所の開示で十分であり、電子メールアドレスの開示を受けるべき正当な理由はないとも争った。 【判旨】 東京地裁は、原告の請求を認容した。まず著作権の帰属について、本件著作物は映画の著作物であり、監督Xが脚本の創作や映像編集等の総指揮を行って最終決定権限を有していたから著作者に当たり、吸収合併された旧会社は「エスワン」のメーカー名を用いて企画・製作費用を負担した映画製作者に当たるとした上で、監督が製作参加を約束して製作したことから、著作権法29条の規律に従い旧会社が著作権を取得し、これを吸収合併により原告が承継取得したと認めた。送信可能化の事実についても、提出されたスクリーンショットの比較により、本件動画の少なくとも一部はモザイクの有無を除き本件著作物と同一であり、タイトルや長さの相違は同一性の認定を左右しないとして、本件アップロードにより本件著作物の一部が送信可能化されたと認定した。その上で、発信者が送信可能化権を行使する正当な権限を有していた事情もうかがわれないから、権利侵害が明らかであるとした。正当な理由についても、原告が発信者に対し不法行為に基づく損害賠償請求権等の行使のため情報開示を受ける必要があるとし、電子メールアドレスについても、発信者が転居している場合等には発信者を特定する手がかりになり得るから開示が不要とはいえないとして、氏名、住所に加えて電子メールアドレスの開示も命じた。本判決は、アダルト映像作品についても著作権法上の映画の著作物として保護が及ぶことを前提に、プロバイダ責任制限法4条1項の開示要件を通常の手順で判断したものであり、インターネット上の海賊版対策としての発信者情報開示請求の実務に沿う判断である。