生活保護返還金決定処分取消等請求事件,追加的併合事件
判決データ
- 事件番号
- 平成30行ウ10
- 事件名
- 生活保護返還金決定処分取消等請求事件,追加的併合事件
- 裁判所
- 東京地方裁判所
- 裁判年月日
- 2019年4月17日
AI概要
【事案の概要】 本件は、生活保護法に基づく保護を受給し、生活扶助について障害者加算の認定を受けていた原告が、保護の実施機関である東久留米市福祉事務所長から、平成28年10月1日以降の障害者加算を削除する処分(本件加算削除処分)及び平成27年7月1日から平成28年9月30日までに支給済みの障害者加算額合計26万2950円全額について法63条に基づく返還を命じる処分(本件返還処分)を受けた事案である。原告は精神障害者保健福祉手帳の有効期限(平成27年6月30日)経過後、通院先医師との関係不良などの個人的事情で手帳更新ができずにいたが、国民年金法施行令別表の障害等級2級に該当する精神障害の状態は継続していたと主張し、手帳の期限切れのみを理由とする両処分は違法であるとして、被告東久留米市に対し本件加算削除処分の無効確認と本件返還処分の取消しを求め、さらに被告東久留米市と同市を指導する立場の被告東京都に対し、国家賠償法1条1項に基づき連帯して15万5060円(削除期間中の未支給加算額3万5060円及び慰謝料12万円)の損害賠償を求めた。 【争点】 争点は、(1)本件加算削除処分の無効確認の訴えの適法性(行政事件訴訟法36条の補充性要件の充足)、(2)本件加算削除処分の適法・有効性(手帳期限切れのみを理由に障害の程度判定を行わず加算を削除することが法56条の「正当な理由」にあたるか)、(3)本件返還処分の適法性(法63条の「資力があるにもかかわらず、保護を受けたとき」に該当するか、要件該当性喪失の立証責任の所在)、(4)国家賠償請求の当否(東久留米市福祉事務所長の職務上の注意義務違反と、助言回答を行った東京都職員の責任)である。 【判旨】 東京地裁は、無効確認訴訟については、未支給の障害者加算額の給付を目的とする限り、被告東久留米市を相手方とする当事者訴訟によってより直截的に目的を達成できるとして、行政事件訴訟法36条の要件を満たさず不適法であるとして却下した。他方、本件返還処分については、従前から障害者加算を受けていた者に対し要件該当性喪失後の加算額の返還を求める場合は実質的に遡及的保護変更にあたることから、加算要件該当性が失われたことを基礎付ける事由の存在について保護の実施機関側が立証責任を負うと判示した。その上で、手帳が更新されなかったのは医師の診断によるものではなく原告と医師との関係不良という個人的事情に起因すること、原告は平成27年7月以降も断続的に精神科・心療内科に通院していたことなどの事情に照らすと、手帳未更新の一事をもって障害の程度が加算対象でなくなったと推認することはできず、他に要件該当性喪失を基礎付ける証拠もないとして、返還処分を違法として取り消した。国家賠償請求については、福祉事務所長は検診命令(法28条1項)の発令や通院先医師への照会等により障害の程度の把握に努めるべき職務上の法的義務があったにもかかわらず、これを怠り漫然と違法な加算削除処分を行ったとして、過失も含めて国家賠償法1条1項の違法性を認め、被告東久留米市に対して未支給加算額3万5060円及び遅延損害金の支払を命じた。慰謝料請求については、実質は金銭債務の履行遅滞責任を問うものであるとして最高裁昭和48年10月11日判決を引用し棄却した。一方、被告東京都の回答は地方自治法245条の4に基づく技術的助言にすぎず法的拘束力を持たないため、同都職員の回答と損害との間に相当因果関係はないとして、同都に対する請求は棄却した。本判決は、障害者加算削除の場面において手帳の有効期限切れのみを根拠とする機械的運用を戒め、実施機関に積極的な障害程度調査義務を課した点で、生活保護行政における障害者の権利保障上重要な意義を有する。