AI概要
【事案の概要】 本件は、意匠登録出願拒絶査定不服審判請求に対する不成立審決の取消訴訟である。原告(高山商事株式会社)は、平成28年4月22日、「卓上敷マット」に係る意匠(本願意匠)について意匠登録出願をしたところ、平成29年4月6日付けで拒絶査定を受け、同年7月14日に拒絶査定不服審判を請求したが、特許庁は平成30年8月27日、本件審判請求は成り立たない旨の審決をした。そこで原告が審決の取消しを求めたのが本件訴訟である。本願意匠は、平面視略横長長方形(縦横比約1:2.1)のシート状で、長手方向に多数敷かれた真菰が略等間隔の5本の糸で短手方向に編まれ、真菰の左右端が部分的に梳かれて櫛歯状の耳部が形成され、上下の縁に細帯状の化粧縁布(濃緑色地に金色の亀甲文様と菱紋状模様)が設けられた「卓上敷マット」である。編み糸は平面視左から緑、赤、白、紫、黄に配されている。審決は、本願意匠が、慶弔用品分野における真菰で形成されたマット(意匠1)および盆飾りを載せる「盆茣蓙」(意匠2、公報は平成14年発行)の形態に基づき、当業者が容易に創作できたものであり、意匠法3条2項により登録を受けることができないと判断した。 【争点】 争点は、本願意匠が、意匠1および意匠2の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて、当業者が容易に創作をすることができたもの(意匠法3条2項)にあたるか否かである。具体的には、①慶弔用品分野の意匠1・意匠2の形態を、日用品である「卓上敷マット」の物品分野に転用することが容易か、②縦横比を約1:2.5から約1:2.1に調整し、編み糸5本のうち紫と赤の配置を入れ替えた点につき、着想の新しさや独創性が認められるかが問題となった。原告は、真菰で形成されたマットは経机等の仏具に敷かれる慶弔用品で、浄・不浄の観念からも日常の机に敷かれる例は皆無であり、異業種展示会を介しても消費財への転用発想は生じないこと、編み糸の配色と全体の縦横比の相違は取引者・需要者に強い別異の印象を与える特徴的な部分であることを主張した。 【判旨】 裁判所は、意匠法3条2項は、物品との関係を離れた抽象的なモチーフとして公然知られた形態を基準に、当業者の立場からみた意匠の着想の新しさや独創性を問題とするものであり、同条1項3号の需要者の美感を基準とする類否判断とは考え方を異にすると説示した(最判昭和49年3月19日、最判昭和50年2月28日参照)。その上で、真菰を並べたマットを経机等に敷くことが出願前に慶弔用品分野で広く知られ、意匠2の盆茣蓙の形態は平成14年の意匠公報により公然知られていたと認定した。そして、卓上敷マットと意匠1・意匠2はいずれも「卓」の上に敷かれて物を載置するという用途・機能において共通し、東京インターナショナル・ギフト・ショー等の異業種交流見本市で両者が同時に出品され、テーブル掛け分野の当業者が慶弔用品の形態に接する機会が十分あったと認められることから、当業者は意匠1から着想を得て真菰製の卓上敷マットを想到し、さらに意匠2の形態を卓上敷マットに転用することを容易に想到できたと判断した。常に物を載置するか否か、使用時期が限定されるか否かの違いは、用途・機能の共通性に比べ些少であるとした。相違点1(縦横比を約1:2.5から約1:2.1に調整した点)は、テーブル掛けに様々な縦横比が存在する中での適宜な調整にすぎずありふれた手法であり、相違点2(5本の編み糸のうち紫と赤の配置を入れ替えた点)も、色彩自体に違いはなく適宜の変更にすぎず、いずれも着想の新しさや独創性はないと判断した。原告主張の美感上の別異性は3条2項の判断に影響せず、浄・不浄の宗教的感情によっても転用は妨げられないとして、原告の請求を棄却した。本判決は、異業種である慶弔用品の形態から日用品の意匠を創作する容易性を肯定したもので、意匠法3条2項における物品分野横断的な創作容易性判断の射程を示した実務上意義のある判断である。