AI概要
【事案の概要】 本件は、愛知県立高校の陸上競技部の部活動においてハンマー投げの練習中、同部の部員がハンマーの投てき動作に入り、次に投てきする原告が待機していたところ、投てき動作中のハンマーのワイヤーが破断して、ハンマーのヘッド部分が防護ネットをすり抜けて原告の左足に当たり、原告が左脛骨遠位部開放性骨挫傷、はく離骨折等の傷害を負った事故について、原告が、被告(県)に対し、国家賠償法1条1項又は2条1項に基づき、慰謝料等合計427万1830円及び遅延損害金の支払を求めた事案である。原告は、本件事故当時、ハンマー投げの強豪校への推薦入学が決まっていた高校3年生の選手であり、本件事故により約1年半にわたり十分な練習ができず、選手生命が脅かされる事態に至った。本件練習場は、不要となったサッカーゴール枠と古いネットを再利用して陸上部顧問のf教諭が設置した手作りの防護ネットが設けられていたにとどまり、前面開口部のほか投てき方向右後方にも出入口(本件出入口)があり、投てきサークルと本件出入口とがほぼ一直線をなす構造となっていた。 【争点】 (1)本件ハンマーが国家賠償法2条1項の「公の営造物」に当たるか、(2)本件ハンマーに設置管理の瑕疵があるか、(3)本件練習場に設置管理の瑕疵があるか、(4)f教諭に注意義務違反があったか、(5)損害額及び過失相殺の可否、である。 【判旨】 裁判所は、本件ハンマーは県立高校が部活動の用に供するために購入し部室で保管していたものであるから、公共団体により公の目的に供用される有体物として公の営造物に当たると判示した。他方、ハンマー投げにおいては競技中にワイヤーが破断することを前提としたルールが定められていること、本件ハンマーは納入から約1か月半しか経過しておらず危険性が高まっていたとは認められないことから、本件ハンマー自体の設置管理の瑕疵は否定し、f教諭のハンマー管理義務違反も否定した。もっとも、本件練習場については、全国大会入賞レベルの選手が出現し投てきの初速が上がるなど危険度が増している状況下にあり、本件出入口が投てきサークルとほぼ一直線に開口した構造となっていてハンマーが飛び出すのを防げない配置であった点、待機場所の設定も不適切であった点に照らし、ハンマー投げ練習場として通常有すべき安全性を欠いており、設置管理の瑕疵があると認定した。また、f教諭についても、防護ネットを鉤の手型に配置するなどしてハンマーの飛び出しを防ぐことは困難でないにもかかわらずこれを怠り、かつ以前に野球場方向へハンマーが飛んだ事案が発生していたにもかかわらず抜本的な見直しと待機場所変更の周知徹底を怠り、変更後の待機場所を原告に伝達しなかったことから、防護ネット等の設置管理義務及び安全な待機場所の選定・指示義務に違反したと認めた。損害については、傷害慰謝料150万円、交通費28万4247円、付添費用3万9600円を認容し、原告にも投てきサークルと本件出入口を結ぶ直線上付近で待機していた落ち度があるとして過失相殺1割を適用した上、事故防止ガイドラインを策定せず個々の指導教諭任せにしていた被告の責任は大きいとして、弁護士費用16万4146円を加え、合計180万5608円の支払を命じた。本件は、部活動中の事故について学校施設の瑕疵と指導教諭の注意義務違反を二段構えで認定した事例であり、危険性の高い種目における待機場所の周知徹底と防護設備の適切な設計が、学校設置者の国家賠償責任を左右する重要な要素であることを示した実務的意義のある判決である。