AI概要
【事案の概要】 被告(厚生農業協同組合連合会)が管理運営する病院に勤務していた職員C(死亡当時26歳、大学卒業後に被告へ就職したライフル射撃選手)が、平成26年1月初旬頃に駐車場の車内で一酸化炭素中毒により自殺した事案である。Cは、平成24年岐阜国体の後の平成25年4月、被告本所から本件病院管理課へ異動し、機械修理、消耗品発注、廃棄物処理、決算資料作成等の事務や月3回程度の当直業務に従事していたが、平成25年10月以降は月100時間を超える時間外労働が常態化していた。さらに失踪前日の12月25日にはE事務局長から保健所提出文書の修正をめぐり約1時間にわたる厳しい叱責を受け、翌日未明に絶望的内容のメールを自らのPC宛てに送信した後失踪し、自殺に至った。多治見労働基準監督署長はCが平成25年12月23日頃にうつ病エピソード(F32)を発症したと認定し、労災保険給付がなされた。Cの両親である原告らは、被告が安全配慮義務に違反して過重な長時間労働等をCに強いた結果Cを自殺に至らせたとして、債務不履行に基づき、それぞれ約4547万円の損害賠償及び遅延損害金の支払を求めた。被告の債務不履行責任自体は争いがなく、損害額、過失相殺及び損益相殺が争点となった。 【争点】 争点は、Cの死亡による損害額(特に葬儀費用が安全配慮義務違反に基づく請求で本人の損害として認められるか、及び死亡慰謝料の額)、C側の事情による過失相殺の可否(業務の進め方、超過勤務申請書の不提出、精神科未受診・上司への相談欠如といった自己保健義務違反、スモールボアライフル所持許可失効に伴う事情)、並びに労災から支給された定額特別支給金・遺族特別一時金が損益相殺の対象となるかである。 【判旨】 岐阜地裁は、原告らの請求を各3591万9000円の限度で認容した。まず葬儀費用については、葬儀は専ら死者のために催されるものであって死者の財産から支出される例も少なくないことから、遺族の出捐であっても死者本人に生じた損害と観念でき、安全配慮義務違反と相当因果関係を有するとして160万円を認定した。死亡逸失利益は当事者間に争いがなく5609万3000円、死亡慰謝料は2200万円を相当とし、損害総額(弁護士費用を除く)を7969万3000円とした。過失相殺については、Cは平成25年7月頃から時間外労働が月100時間を超え、10月以降は慢性的長時間労働に陥って同年12月23日頃にうつ病エピソードを発症したと認め、G課長はCの超過勤務申請なしの時間外労働を現認しながら労働時間把握を怠っていたこと、E事務局長も叱責を重ねていたことなどから、使用者が長時間労働を認識しつつ十分な措置を講じなかった以上、精神科未受診・上司への相談欠如をもって労働者の過失と評価することは相当でないとし、超過勤務申請書の不提出やライフル所持許可失効の事情も含め、Cの過失を否定した。損益相殺は、遺族補償一時金1438万5000円のみ控除対象とし、定額特別支給金及び遺族特別一時金は遺族の福祉増進を目的とする給付で損害填補性がなく控除できないとした。以上を踏まえ、相続分2分の1と弁護士費用各326万5000円を加算して主文の金額を認めた。本判決は、使用者が労働時間適正把握義務を怠り長時間労働を放置した過労自殺事案において、労働者側の自己保健義務違反(未受診・不相談)を原則として過失相殺事由として評価しないことを明確に示した点、及び安全配慮義務違反に基づく損害賠償でも葬儀費用を本人の損害と構成できるとした点で、実務的に意義を有する。