安保関連法違憲国家賠償請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、平成27年9月19日に国会で可決された平和安全法制整備法及び国際平和支援法(以下「平和安全法制関連2法」という。)が憲法9条に違反するとして、札幌市内の住民等の原告らが国に対し差止請求及び損害賠償請求を求めた事案である。原告らは、①内閣による平成26年7月1日の閣議決定、平成27年5月14日の法案提出に係る閣議決定、同月15日の衆議院への法案提出、及び国会の立法行為が、集団的自衛権の行使や後方支援活動等を認めるものとして憲法9条に違反し、原告らの平和的生存権及び人格権を侵害したと主張して、国家賠償法1条1項に基づき各10万円の慰謝料の支払を求め、②原告A1ら5名については、自衛隊法76条1項2号に基づく防衛出動命令、重要影響事態法6条1項2項及び国際平和支援法7条1項2項に基づく後方支援活動等としての物品・役務提供の差止めを、平和的生存権及び人格権に基づいて求めた。原告らは、第二次世界大戦の被爆体験者、戦争経験者、教師、自衛官の家族、医療支援者、大学教授等多様な立場の者で構成され、それぞれ戦争体験や平和への信念が法の成立により傷つけられたと訴えた。 【争点】 主要な争点は、(1)差止請求の適法性(行政権行使に対する民事差止めの可否、抗告訴訟該当性)、(2)原告らが主張する平和的生存権が国家賠償法上保護される具体的権利ないし法的利益といえるか、(3)平和安全法制関連2法の成立等により原告らの人格権が違法に侵害されたか、(4)本件における裁判所の違憲審査権行使の要否である。 【判旨】 札幌地方裁判所は、差止請求を却下し、損害賠償請求を棄却した。まず差止請求については、出動命令・後方支援活動等は内閣総理大臣、防衛大臣又はその委任を受けた者による行政権の行使そのものであり、私人が私法上の給付請求権を有するものではないから民事差止請求としては不適法であるとし(最大判昭和56年12月16日民集35巻10号1369頁等参照)、行政訴訟と解しても出動命令等は行政機関相互の内部的命令や事実行為にとどまり国民の権利義務を形成するものではないため抗告訴訟の対象たる「公権力の行使」に当たらず、民衆訴訟としても法律上の根拠を欠き不適法であるとした。損害賠償請求については、憲法前文の「平和のうちに生存する権利」は憲法の崇高な理想を示す解釈指針にとどまり、「平和」は抽象的概念で具体的内容を一義的に確定できず、憲法9条も統治活動に関する基本政策を明らかにしたものにすぎないから、平和的生存権は国家賠償法上保護される具体的権利ないし利益とは認められないと判示した。人格権侵害についても、信条・信念に反する立法により生じる精神的苦痛は間接民主主義の下では不可避的に生じ受忍限度内であるとし、2法成立後も我が国は武力行使の対象となっておらず集団的自衛権の行使や後方支援活動も現実に行われていないことから、戦争・テロによる生命・身体・財産侵害の危険は抽象的不安の域を出ないと判断した。自衛官の家族である原告らが抱く不安についても、出動命令や存立危機事態の認定がなされておらず派遣の蓋然性が低いとして、人格権侵害を否定した。さらに、違憲立法審査権は具体的事件の解決に必要な場合にその限度で行使されるものであるから(最大判昭和27年10月8日民集6巻9号783頁参照)、被侵害利益が認められない以上、2法の憲法適合性について判断する必要はないとして、憲法判断を回避した。本判決は、安保法制違憲訴訟の全国的な系列訴訟の一つであり、平和的生存権の具体的権利性を否定し、憲法判断回避の手法を用いて原告らの請求をすべて退けた点で、同種訴訟の判断枠組みに影響を与えるものである。