特許権侵害差止等請求控訴事件
判決データ
- 事件番号
- 平成30ネ10078
- 事件名
- 特許権侵害差止等請求控訴事件
- 裁判所
- 知的財産高等裁判所
- 裁判年月日
- 2019年4月24日
- 裁判官
- 鶴岡稔彦、鶴岡稔彦
- 原審裁判所
- 東京地方裁判所
AI概要
【事案の概要】 本件は、発明の名称を「加熱調理器」とする特許第3895312号の特許権(本件特許権)及び同特許権に基づく一切の請求権の譲渡を受けた控訴人(アイリスオーヤマ株式会社)が、被控訴人(日立アプライアンス株式会社)に対し、被控訴人が製造販売する誘導加熱調理器(IHクッキングヒーター)各種モデルが本件特許の請求項1記載の発明(本件発明)の技術的範囲に属するとして、特許法100条1項に基づく製造販売の差止め、同条2項に基づく製品の廃棄、及び民法709条に基づく損害賠償(4億4000万円及び遅延損害金)を求めた事案の控訴審である。対象期間は平成19年1月から平成28年12月までであり、被控訴人製品の累計販売額は別紙記載のとおり総額726億円に及ぶ。原審(東京地裁)は、被告製品関連製品が本件発明の構成要件Eを充足しないとして控訴人の請求を全部棄却したため、控訴人が不服として本件控訴に及んだ。 【争点】 本件の中心的争点は、本件発明の構成要件E(「これら加熱部に前記調理容器を所定の間隔を存して並置可能とする最大径の調理容器を載置したとき、この所定の間隔より該調理容器の外殻から前記トッププレートの前記フレームの係り代を除く左右端部までの距離を長くなる構成としたこと」)の解釈、とりわけ「最大径の調理容器」の意義及び被告各製品がこれを充足するか否かである。控訴人は、主位的に「最大径の調理容器」とは「左右の加熱部上に所定の間隔寸法を確保した上で並置可能であり、かつ、従来不十分であった左右端部方向における距離的余裕を確保して決定されるもの」と解すべきであり、取扱説明書に「12〜26cm」と表記されていることから鍋底直径26cmの鍋を基準とすべきと主張した。予備的には、原判決の「リング状枠と同径」との解釈を前提としても、被告製品1のトッププレート上に表示された直径20cmのIHヒーター位置マークがリング状枠に該当するから侵害が成立すると主張した。 【判旨】 知的財産高等裁判所第3部は、控訴を棄却した。裁判所は、構成要件Eが加熱調理器という装置の発明において装置の構成要素とはいえない調理容器との関係に基づいて発明の構成を特定するものであることから、本件明細書等の内容を考慮して意義を検討する必要があると指摘し、その上で、構成要件Eを有することは、装置の構成として構成要件Eの表す関係(調理容器同士の間隔<調理容器の外殻から左右端部までの距離)を成立可能とする手段を有することを意味すると解した。具体的には、調理容器の径を判別し最大径以下の調理容器を加熱部中央に位置決め制御する自動的手段や、使用者が調理容器を加熱部に置く際に上記関係が成り立つかを確認できる手段、あるいは上記関係に誘導する手段を備えることが必要となる。本件においては、被告製品1に使用可能な最大径の調理容器は取扱説明書上鍋底直径26cmであると認められるところ、被告製品1自体には最大径を超えるか否かを確認する手段がなく、またIHヒーター位置マーク(直径20cm)は最大径鍋より6cmも小さいため、使用者が載置する際に調理容器中心とマーク中心を正確に一致させることは困難であり、必ずしも構成要件Eの表す関係が成り立つとはいえないから、同マークは誘導手段たり得ない。他の被告製品関連製品もこの点で異ならないとして、いずれも構成要件Eを充足しないと結論付け、予備的主張についても最大径調理容器がリング状枠と同径であることを前提とする点で前提を欠くとして排斥した。本判決は、装置発明のクレームが装置外の物(調理容器)との関係で構成を特定している場合に、その関係を成立可能とする装置側の手段の存在を要すると整理した点で、クレーム解釈・均等論以前の技術的範囲認定の枠組みを示すものとして、IH調理器分野を含む家電分野の特許実務上重要な意義を有する。