特許権侵害差止等請求控訴事件
判決データ
- 事件番号
- 平成30ネ10017
- 事件名
- 特許権侵害差止等請求控訴事件
- 裁判所
- 知的財産高等裁判所
- 裁判年月日
- 2019年4月25日
- 裁判官
- 森義之
- 原審裁判所
- 東京地方裁判所
AI概要
【事案の概要】 本件は、除草剤用途の新規化合物(発明の名称「2-ベンゾイルシクロヘキサン-1,3-ジオン」)に関する特許権を有する一審原告(ドイツの化学会社BASF)が、一審被告(バイエルクロップサイエンス株式会社)に対し、一審被告が輸入・販売する水稲用除草剤の有効成分「テフリルトリオン」(被告製品1)およびこれを含有する農薬混合剤(被告製品2、「ボデーガード」「ポッシブル」等)の製造販売が本件特許権を侵害すると主張した事案である。一審原告は、特許権侵害の差止め・廃棄および損害賠償を求めたが、控訴審において差止め等の請求は取り下げ、平成22年9月24日から平成30年8月5日までの実施料相当額(特許法102条3項)として19億円余の損害賠償を請求した。また、被告製品1(テフリルトリオン原体)の輸入販売について、一審被告が全国農業協同組合連合会(全農)および北興化学工業との共同不法行為を構成すると主張した。原審(東京地裁)は、被告製品2の特許権侵害を認めて差止め等と約2億円の損害賠償を認容したが、全農らとの共同不法行為は否定し、双方が控訴した。 【争点】 本件の主たる争点は、(1)被告各製品が本件特許発明の技術的範囲に属するか(構成要件中の「X1が酸素により中断されたエチレン鎖」の解釈)、(2)本件特許の明細書にサポート要件違反・実施可能要件違反の無効理由があるか、本件訂正により当該無効理由が解消するか、(3)被告製品1について、一審被告・全農・北興の共同不法行為が成立するか、(4)実施料相当額の損害算定における相当実施料率(一審原告は8%を主張、一審被告は4%×寄与率50%を主張)である。 【判旨】 知財高裁は以下のとおり判断した。技術的範囲については、「X1が酸素により中断されたエチレン鎖」とは、エチレン鎖が酸素原子によって途中で断ち切られた構造(-CH2-O-CH2-)を意味するものと解され、テフリルトリオンはこれに該当するから、被告各製品は本件各訂正発明の技術的範囲に属すると認めた。無効理由については、本件出願日当時、2-ベンゾイルシクロヘキサン-1,3-ジオン化合物が除草特性を有することが当業者に知られていたから、当業者は本件各発明の化合物が除草剤の有効成分候補となり得ると認識でき、サポート要件に適合し、本件訂正により実施可能要件違反も解消したと判断した。共同不法行為については、一審被告・全農・北興が平成16年にテフリルトリオンの共同開発契約を締結し、平成22年に共同記者会見を行って販売を開始した事実は認められるものの、全農が被告製品1をどのように製造・販売するかの重要な要素にまで一審被告が関与していたとは推認できず、一審被告の利益配分もロイヤルティや開発費用回収の性質を有するにとどまるから、客観的関連共同性は認められず、共同不法行為は成立しないと判示し、この点の一審原告の控訴を棄却した。実施料率については、類似技術分野の平均的ロイヤルティ率(有機化学・農薬分野で5.9%)を参照しつつ、本件明細書には除草特性の個別実験結果が示されておらず実用化には相応の試行錯誤を要すること、被告製品2の顧客吸引力の一部はフェントラザミド等の他の有効成分にも帰属すること、他方で一審被告が無許諾で長期にわたり製造販売を継続してきたこと等を総合考慮し、原審より高い料率を相当と認め、損害賠償額を3億7383万余円(弁護士・弁理士費用3400万円を含む)に拡張して認容した。本判決は、化学物質の新規性発明に関する特許について、混合剤における有効成分の寄与度や実用化に要する試行錯誤の程度を踏まえて実施料率を柔軟に算定した事例として、農薬特許実務上意義を有する。