AI概要
【事案の概要】 平成29年7月9日に執行された奈良市長選挙において、次点者と告示された原告山下真(現職市長候補)およびその支持者である選挙人らが、当選の効力に関する争いを提起した事件である。 本件選挙には、山下真、仲川げん、ほか2名の計4名が立候補し、開票の結果、仲川が6万1934票、山下が5万9912票を獲得し、得票差2022票で仲川が当選人と決定された。 原告らは、開票作業に不公正な取扱いがあったと主張し、市選挙管理委員会に対し異議を申し出たが棄却されたため、大阪府選挙管理委員会(被告)に審査の申立てをした。被告はこれも棄却する裁決をしたことから、原告らは本件裁決の取消しを求めて本件訴訟を提起した。 原告らの主張の核心は、開票作業において、「中川」「中野げん」「中山」など仲川候補の氏名とは異なる記載の票約4434票が誤って仲川の有効票とされた一方(潜在的無効票)、「木下まこと」「山田真」「山中まこと」「山本まこと」など山下の誤記載とみられる票約912票が無効票のままとされた(潜在的有効票)点にあった。その根拠として、開票事務に従事したという匿名者のSNS投稿が援用された。大阪高裁は裁判所自ら検証を実施し、無効票のうち「候補者でない者の氏名を記載したもの」に分類された627票を個別に点検した。 【争点】 仲川候補および原告山下の有効投票数の算定に違法があったか、具体的には、開票の現場で恣意的・不公正な取扱いが行われ、潜在的無効票および潜在的有効票が得票差2022票を動かすほど多数存在したと認められるかが争点となった。 【判旨】 裁判所は原告らの請求を棄却した。 まず、匿名者のSNS投稿については、供述を裏付ける客観的証拠がなく、検証の結果も「山田真」と記載された票は存在せず、「木下まこと」と同一表記の票もなく、字音が同じ「木下真」が1票存在したにとどまるため、その供述は採用できないとした。 次に、検証対象とされた627票のうち争いのある46票(本件疑問票)について、最高裁判例(昭和32年判決、昭和42年判決、平成4年判決)を参照しつつ個別に判定した。すなわち、投票意思の認定には諸般の事情を考慮し、記載文字の拙劣・誤字・脱字があっても投票意思が明認できれば有効とすべきだが、記載と候補者氏名との若干の類似性を手がかりとして有効票と解することは容認できないという枠組みを示した。 その結果、「木下真」「山島真」「山田まこと」「山中まこと」「山本まこと」「みやしたまこと」の6票を原告山下の有効票、「中川ゲンキ」「西川げん」の2票を仲川候補の有効票と認めたが、氏のみ2文字の票(「山本」「木下」「山川」等)や、同日執行の市議選候補「山口まこと」と完全一致する票、字形・音感が候補者氏名と異なる票(「坂下げん」「仲川さんじ」「仲川よしひ子」等)はいずれも無効とした。 潜在的有効票は山下・仲川双方に存在し、その数は検証対象の1.28パーセントにすぎず、原告主張のような多数の潜在的有効票・無効票の存在は認められないとし、開票時に仲川に有利な恣意的取扱いがあったとは認められないとして、本件裁決は適法であると結論づけた。