損害賠償請求控訴事件
判決データ
- 事件番号
- 平成30ネ5402
- 事件名
- 損害賠償請求控訴事件
- 裁判所
- 東京高等裁判所
- 裁判年月日
- 2019年5月14日
- 裁判種別・結果
- その他
- 裁判官
- 萩原秀紀、馬場純夫
- 原審裁判所
- 東京地方裁判所
AI概要
【事案の概要】 本件は、弁護士である一審原告(在日朝鮮人2世を父として日本で生まれ、昭和59年に帰化した日本国籍の弁護士)が、一審被告から東京弁護士会に対して懲戒請求(以下「本件懲戒請求」)を受けたことは不法行為に当たるとして、民法709条・710条に基づき、慰謝料等合計55万円の支払を求めた事案の控訴審である。 本件懲戒請求は、日本弁護士連合会および東京弁護士会が発した「朝鮮学校への補助金支給を求める会長声明」を違法な売国行為だとし、これに賛同・容認する弁護士を処分せよという趣旨のもので、対象とされた18名のうち、一審原告を含む8名は、氏が在日コリアンを想起させることのみを手掛かりに名指しされていた。東京弁護士会綱紀委員会は事由なしと議決し、懲戒しない旨の決定がされた。なお、同時期に同一書式による約960件の大量懲戒請求が一斉に提起されていた。 原審は、一審被告の欠席により自白擬制を認め、慰謝料30万円と弁護士費用3万円の計33万円の限度で請求を一部認容したため、双方が控訴した。 【争点】 本件懲戒請求が不法行為を構成するか(判断基準として、懲戒請求自体の違法性が問題となる事案につき、平成19年最高裁判決の基準と平成23年最高裁判決の基準のいずれが妥当するか)、および損害額が争点となった。 【判旨】 原判決を変更し、慰謝料10万円・弁護士費用1万円の計11万円およびこれに対する遅延損害金の限度で請求を認容した。 裁判所はまず、懲戒請求自体の違法性が問題となる本件には平成19年最高裁判決(民集61巻3号1102頁)の基準が妥当し、テレビ番組出演者の呼びかけ行為の違法性が問題となった平成23年最高裁判決は実質的変更ではないと判示した。その上で、一審原告は東京弁護士会役員でも会長声明の発出主体でもなく、対象18名中本件8名の選別は「専ら氏を手掛かりとした民族的出身に着目したもの」で、民族的出身に対する差別意識の発現にほかならないと認定した。 一審被告は、本件懲戒請求の時点で在日コリアンが弁護士資格を有し得ることすら知らず、当審に至るまで別件訴訟の被告らが作成した書面を流用するのみで独自の裏付け資料を提出していなかったから、事実上・法律上の根拠を欠くことを知り、または通常人の注意で知り得たのにあえて懲戒請求に及んだものであり、弁護士懲戒制度の趣旨目的に照らし相当性を欠くと判断した。 他方、損害額の算定では、①本件懲戒請求が大量懲戒請求の中で付和雷同的にされたこと、②綱紀委員会が一審原告の弁明書を要せず直ちに不相当の議決をしており、弁護士会対応の特別な負担がなかったこと、③弁護士法58条1項が広く懲戒請求権を認めた趣旨に照らし、法的知識のない一般人に対して弁護士がある程度謙抑的姿勢をとるべきことを考慮し、慰謝料は10万円が相当と減額された。 本判決は、民族的出身を手掛かりとする懲戒請求は違法な不法行為を構成すると明示した点で意義があり、大量懲戒請求事件群における損害額算定の先例としても参照される裁判例である。