遺族補償給付等不支給処分取消請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 フレンチレストランで調理師として勤務していた亡Aは、平成24年11月にウイルス性の劇症型急性心筋炎を発症し、補助人工心臓の装着手術等を受けたものの、約半年後の平成26年6月に脳出血により死亡した。亡Aの妻である原告は、夫の死亡は本件会社における長時間労働等の過重業務が原因であるとして、労働者災害補償保険法に基づき、大阪中央労働基準監督署長に対して療養補償給付、遺族補償年金、葬祭料及び休業補償給付の支給を請求した。しかし処分行政庁は、業務と本件疾病との相当因果関係が認められないとして、いずれも不支給処分とした。審査請求及び再審査請求がいずれも棄却されたため、原告は本件各処分の取消しを求めて出訴したものである。 【争点】 本件疾病(ウイルス性の劇症型急性心筋炎)発症の業務起因性の有無、すなわち亡Aの業務と本件疾病発症との間に相当因果関係が認められるかが争点である。具体的には、長時間労働による過労・睡眠不足が免疫力を低下させ、ウイルス感染による心筋炎の発症及び劇症化をもたらしたといえるかが問われた。被告は、急性心筋炎は脳・心臓疾患の認定基準の対象疾病ではなく、長時間労働と心筋炎発症との関連を示す医学的知見も確立していないうえ、亡Aの血液検査結果からは免疫力低下を示す所見がなく、遺伝的素因や自己免疫的素因の関与も否定できないと反論した。 【判旨】 裁判所は請求をいずれも認容し、本件各処分を取り消した。判旨は次のとおりである。業務上疾病に該当するためには業務と疾病との間に相当因果関係が認められる必要があり、その判断は業務に内在する危険が現実化したと評価できるかによる(最高裁昭和51年11月12日判決等)。本件では、警備システム作動記録等から亡Aの時間外労働時間が発症前12か月間平均で1か月当たり約250時間に及び、認定基準の指標(発症前2〜6か月平均80時間超)を大幅に超える極端な長時間労働と睡眠不足の状態にあったと認定した。そのうえで、慢性疲労や睡眠不足がNK細胞の減少・活性低下等の免疫異常を生じさせ、ウイルス感染症の発症・重篤化のリスクを高めることについては相応の医学的裏付けがあるとし、亡Aは免疫力に著しい異常を生じていたと認めた。被告が依拠する医師意見は、遺伝的素因等業務外の事情が関与した抽象的可能性を示すにすぎず、本件において業務外の具体的事情の存在を示す的確な証拠はないと指摘した。急性心筋炎が認定基準の対象疾病に含まれていないことも、極端な長時間労働に従事した個別事案における業務起因性を否定する事情にはならないとし、本件疾病の発症は業務に内在する危険が現実化したものであるとして業務起因性を肯定した。本判決は、認定基準対象外のウイルス性疾病について長時間労働による免疫力低下を介した業務起因性を正面から認めた点に意義があり、過重労働と感染症との因果関係を争う労災訴訟の実務に影響を与える判断である。