著作権に基づく差止等請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 中学受験塾大手の「サピックス小学部」を運営する原告会社が、同じく中学受験塾を運営する被告会社に対し、原告が作成した国語のテスト問題2題と「解答と解説」を被告が無断利用したとして、著作権侵害を理由に差止めと1500万円の損害賠償を求めた事案である。原告は平成30年4月15日、通塾生および外部希望者に対し自社作成のテストを実施し、テスト終了の1時間後、被告がウェブ上のライブ動画で当該問題の解説講義を配信した。原告は、被告が問題と解説を複製したうえでライブ解説を行ったとして複製権侵害を主張し、仮に被告自身が複製していなくても、保護者や生徒を手足として複製させたのであるから被告の間接正犯としての複製行為と評価されるべきだと主張した。また、被告のライブ解説は原告の問題・解説を翻案した二次的著作物であるとも主張した。中学受験業界では他塾のテスト問題をいち早く解説する「追っかけ解説」が競争ツールとなっており、本件はその適法性が問われた注目事案である。 【争点】 第1に、原告の作成した問題および解説に著作物性が認められるか。第2に、被告のライブ解説配信行為が原告の複製権または翻案権を侵害するか。特に被告自身が複製していない場合に、生徒・保護者を介した複製を被告の行為と同視できるか(間接正犯論)が問題となった。第3に、損害の有無およびその額。 【判旨】 請求棄却。 裁判所はまず著作物性について、国語問題の作問では題材となる作品の選択、文章のどの部分を取り上げるか、どのような設問をどの順序で配置するかに作問者の個性が発揮されると述べ、本件問題は素材の選択・配列に創作性がある編集著作物に該当すると認めた。解説部分についても、説明方法や流れに工夫がみられるとして言語の著作物性を肯定した。 しかし複製権侵害については、被告が問題原本を生徒から入手し解説した事実は認めつつ、被告自身が問題・解説を複製したと認めるに足りる証拠はないと判断した。さらに、被告が指導者としての強い立場を利用して保護者・生徒に複製を依頼した事実や、費用負担・金銭供与等の働きかけをして複製させた事実も認められないとして、原告主張の間接正犯論を排斥し、仮に保護者・生徒が複製して被告に交付したとしても、そのことから直ちに被告自身の複製と同視することはできないとした。 翻案権侵害についても、被告ライブ解説は本件問題の画像を表示せず、問題文を読み上げもしていないため、素材の選択・配列に係る本質的特徴を感得することはできないとした。解説の翻案についても、本件解説と被告ライブ解説を対比すると表現が共通する部分はほとんどなく(共通するのは「険のある」「祐介」等の語句のみ)、本質的特徴の同一性は維持されていないと判断した。 本判決は、テスト問題・解説の編集著作物性を広く認めた一方で、競合塾による口頭のライブ解説は問題文そのものを表示・読み上げない限り翻案に当たらず、同じ問題を同じ視点から解説して同じ解答を導く行為それ自体はアイデアの領域にとどまると判示した点に実務的意義があり、受験業界における「追っかけ解説」ビジネスの適法性判断枠組みを示した事例といえる。