現住建造物等放火未遂,逃走
判決データ
AI概要
【事案の概要】 被告人は,復縁の要求を拒否した元妻に立腹し,放火及びその後の逃走に及んだ事案である。 第1の放火未遂事件は,平成30年2月7日未明,元妻Bら2名が居住する名古屋市内の鉄筋コンクリート造2階建居宅(床面積約105平方メートル)に対するものである。被告人は,灯油約400ミリリットルを入れたペットボトルを持参し,深夜,居住者が就寝するのを待って勝手口ドア前に灯油をまき,火を放った。しかし,就寝中の居住者が火災に気付いて迅速に消火活動を行ったため,隣接する納屋の柱を焼損し,勝手口ドアを焦がす程度にとどまり,財産的被害は約8万円であった。 第2の逃走事件は,上記放火の被疑者として勾留中,同年3月2日から鑑定留置となり,同年4月9日から東尾張病院に移されていた被告人が,同年5月22日午後9時過ぎ,準保護室の腰高窓に設置されていた硬質ゴム製の窓止具を手で押し下げて窓を開け,高さ約3.8メートルのフェンスを乗り越えて病院敷地外へ逃走したというものである。被告人は窓のセンサーが発報しないよう細工を施し,元妻宛てのはがきを携えて逃走に及んでおり,計画的かつ巧妙な犯行であった。 【判旨(量刑)】 裁判所は,被告人を懲役4年に処し,未決勾留日数中270日をその刑に算入した(求刑懲役6年)。 量刑の中心となる放火未遂について,深夜,灯油を用いて住宅街の居宅の勝手口を燃やそうとした態様は極めて危険かつ悪質であり,灯油を持参した点に相応の計画性も認められると評価した。結果は未遂で財産的被害は軽微であったものの,居住者に与えた恐怖や近隣建物への延焼の危険性は既遂と大差はなく,消火活動が遅れていれば被害拡大の可能性もあったと指摘した。復縁を拒まれ電話を切られたことに腹を立てたという動機は短絡的かつ身勝手極まりなく,酌量の余地はないとした。 逃走についても,鑑定留置先の生活環境に不満を抱き,センサーに細工を施すなど自己中心的な動機による計画的かつ巧妙なもので悪質であると認定した。 裁判所は,以上の事情からすれば,燃料を用いた放火未遂事案の中でも刑事責任は相応に重く,たやすく執行猶予を付すべき事案ではないとした。その上で,被告人と同居予定の友人及び元妻らとの間で今後の不接触・監督に関する合意書が作成されていること,元妻らが厳しい処罰を希望していないこと,背景にある飲酒やパーソナリティ障害への対応策が講じられていること,友人が法廷で監督を誓約していること,被告人が事実を認めて謝罪していること,量刑上考慮すべき前科がないことなど被告人に有利な事情を最大限考慮してもなお執行猶予は相当でないと判断し,未遂減軽をした刑期の範囲内で主文の刑を言い渡した。