AI概要
【事案の概要】 本件は、地中に埋設されたコンクリート杭を引き抜く「PES工法」に用いられるケーシング装置(特許第4653110号)について専用実施権を有する原告(杭引抜工事業者)が、同装置を購入した被告(同業者)に対し、二つの請求を行った事案である。第一に、被告がケーシング下端部に取り付けられた「チャック爪」(杭を掴むための部品)を無断で交換した行為は特許実施品の「生産」に該当し専用実施権を侵害するとして、損害賠償約932万円及び今後の修理の差止めを求めた。第二に、売買契約の際に、被告が本件機械を使用する杭引抜工事を受注した場合には工事代金の5%を使用料として原告に支払う旨の合意(本件使用料合意)が成立していたとして、約44万円の使用料等の支払を求めた。原告は、被告が月2300m程度の掘削を行っており、チャック爪は7000mごとに交換が必要であることから、少なくとも20回の無断交換が行われたはずだと主張した。 【争点】 主たる争点は、(1)被告が原告から購入したチャック爪(平成27年2月購入分)を用いた1回の交換以外にもチャック爪を交換した事実があったか、(2)チャック爪の交換行為が特許実施品の「生産」に該当し特許権が消尽しない新規製造といえるか、(3)口頭での本件使用料合意が成立したといえるか、である。特許権の消尽論との関係で、購入した特許製品の部品交換がどこまで「修理」として許容され、どこからが実質的に新たな「生産」に当たるかが論点となるが、本件ではその前提となる交換行為の事実の有無が先に問われた。 【判旨】 大阪地裁は、原告の請求をいずれも棄却した。チャック爪交換の点については、本件機械のチャック爪は原告が図面を作成して鉄工所に発注する非汎用品であり、原告以外の者が製造していた事実を認める証拠はないから、被告が原告から購入した1回分以外にチャック爪を交換したと推認することはできないと判断した。原告主張の「7000mごとに交換が必要」との頻度にも客観的裏付けがなく、被告の施工実績も具体的に立証されていないとして、侵害行為の存在自体を否定した。そのため争点2の「生産」該当性には踏み込むことなく、損害賠償請求及び差止請求を斥けた。使用料合意の点についても、被告は420万円で機械を購入し所有権を取得している以上、使用ごとに使用料を負担することに直ちに経済合理性はなく、特段の合意の立証が必要であるところ、注文書・注文請書には類似品作成禁止等の条項は明記されているのに使用料条項は存在せず、原告自身も4件の発注時に使用料の精算や請求を行っていなかったことは原告代表者供述と整合しないとして、合意の成立を否定した。特許実施品を適法に譲渡した後の部品交換について侵害を主張する場面では、単に摩耗交換の必要性を一般論として述べるのではなく、具体的な交換の回数・部品調達経路を立証する必要があることを示した事例であり、特許権消尽と修理・生産の境界という理論的論点の手前で事実認定により決着した実務上意義ある判断である。