各取締役に対する損害賠償請求控訴事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、東京証券取引所一部上場の光学機械メーカー(オリンパスが想起される事案)において、バブル崩壊後に発生した金融資産の巨額含み損を連結決算から切り離して簿外処理する「損失分離スキーム」を約20年にわたり構築・維持し、その解消のために国内3社の高値買収や英医療機器メーカー買収に伴うFA報酬の水増しを行ったなどとして、会社及び株主代表訴訟の原告株主が、歴代の代表取締役社長・会長ら元取締役に対し、会社法423条1項に基づく損害賠償と同法462条1項に基づく違法配当分の支払を求めた事件の控訴審である。請求は損害の性質ごとに①金利・ファンド運用手数料、②IT株運用損、③国内3社株式取得、④ジャイラス買収、⑤疑惑発覚後の対応、⑥分配可能額超過配当、⑦有価証券報告書虚偽記載に伴う課徴金・罰金、の7類型に整理されていた。原審は第5・6・7類型について一部認容し、他を棄却したため、双方が控訴した。 【争点】 中心となった争点は、損失分離スキームの構築・維持に対する各取締役の善管注意義務違反の有無、スキーム維持のために支払われた金利・運用手数料相当額を会社の損害として構成できるか(法人格否認や預金債権価値毀損の枠組みで捉える可否)、元社長を解任して疑惑隠蔽を図ったとされる行為の善管注意義務違反、分配可能額を超える剰余金配当等に係る取締役の会社法462条1項責任の成否とその免責・過失相殺の可否、そして会社に科された罰金・課徴金が取締役の善管注意義務違反による損害に含まれるか否か(特に既に退任した元取締役との相当因果関係)である。 【判旨】 東京高裁は次のように判断した。第1類型については、受け皿ファンド等が支払った金利・運用手数料は直ちに会社の損害とはいえず、法人格否認の法理や預金債権等の価値毀損論も採用できないとして、損害発生を否定し請求を棄却した。第5類型については、元代表取締役からの疑惑指摘に対し虚偽説明を続けて解職決議に賛成した行為は善管注意義務違反に当たり、会社の信用毀損による損害について民訴法248条により1000万円を認定した。第6類型については、訂正後の財務諸表を基準にすれば剰余金配当・自己株式取得はいずれも分配可能額を超えていたことは明らかで、議案提案取締役又は業務執行者に該当する取締役は会社法462条1項により連帯して約586億円の支払義務を負うとし、違法性が明確な本件では信義則・過失相殺による減免は認められないとした。第7類型については、有価証券報告書等の虚偽記載によって会社に科された罰金・課徴金も任務懈怠と相当因果関係がある限り会社の損害に含まれると明示し、二重処罰等の主張を斥けた。もっとも、報告書の作成・提出に関与せず、当該事業年度の経営にも影響を及ぼしていなかった元会長・元社長については、たとえ損失分離スキーム構築期に関与していたとしても、退任後の後継経営陣が独立して行った虚偽記載との間に相当因果関係は認めがたいとして、この部分の原判決を取り消し請求を棄却した。結論として、在任中に虚偽記載等に直接関与した被告らの責任を拡張・維持する一方、退任済み経営者の罰金相当額責任を否定した点が本判決の実務的意義であり、法令違反による罰金・課徴金を取締役の損害賠償責任の範囲に明示的に取り込みつつ、相当因果関係で合理的な歯止めをかけた判断として先例的価値を持つ。