債存在確認等請務不求事件,充当処分取消請求事件
判決データ
- 事件番号
- 平成29行ウ79
- 事件名
- 債存在確認等請務不求事件,充当処分取消請求事件
- 裁判所
- 大阪地方裁判所
- 裁判年月日
- 2019年5月17日
- 裁判官
- 山﨑岳志
AI概要
【事案の概要】 亡Cの相続について、子である原告ら(姉・兄)と弟Dは、平成6年の遺産分割協議で、Dが全不動産を相続する代わりに原告らに各5000万円を支払うという代償分割を行った。原告らは自己の相続税各約1815万円を納付したが、Dは代償金を一切支払わないまま、自己の相続税(本件亡D相続税)も滞納した。 大阪国税局長は、原告らに対し、相続税法34条1項の連帯納付義務(他の相続人の相続税につき、相続で受けた利益の限度で連帯責任を負う制度)の履行を求めた。原告らは、これを免れるため、平成22年にDとの間で平成6年協議を解除し、原告らは何も相続しない旨の遺産分割協議を改めて行った。しかし、国は、原告Aの所得税還付金を連帯納付義務に係る相続税へ充当する処分(本件各充当処分)を行い、原告Bの預金を差し押さえて約3154万円を徴収した(本件徴収等)。 本件は、原告らが、連帯納付義務を負わないなどとして、充当処分の取消し及び徴収金の還付を求めた行政訴訟である。 【争点】 1 連帯納付義務の基礎となる「相続により受けた利益の価額」の評価時点。平成22年の再分割協議による遡及的消滅の可否、及び代償債権が亡Dの資力不足により実質的に無価値であったかの評価。 2 連帯納付義務の前提となる督促状が原告らに発送されたか否か。 3 亡Dからの徴収実績をもって原告らが連帯納付義務を履行したと評価できるか。 4 代償金を受領できなかった原告らに固有財産から連帯納付義務を履行させることが、憲法29条(財産権保障)に反しないか。 【判旨】 大阪地裁は、請求をいずれも棄却した。 争点1について、連帯納付義務は各相続人固有の相続税の納税義務の確定に照応して法律上当然に生じる特別の責任であるとの最高裁昭和55年7月1日判決の理解を前提に、「受けた利益の価額」は、相続税の申告等により固有の相続税の納税義務が確定した時点を基準に評価すべきであると判示した。したがって、平成22年の合意解除により私法上代償債権が遡及的に消滅しても、平成6年12月12日時点での取得の事実は左右されず、また当時のDは少なくとも平成13年頃まで分割弁済する原資を有していたから、代償債権を額面どおり5000万円と評価し、固有相続税額を控除した3184万余円が「受けた利益の価額」であるとした。 争点2については、滞納処分票に督促状発付日・宛先等の記載があり、税務署から国税局への徴収引受の運用実態も踏まえれば、督促状の発送の事実が認定できるとした。管理簿が保存期間経過で廃棄されていることも不自然ではないとした。 争点3については、連帯納付義務の履行と評価されるには自己名義の納付書で納付するのが原則であり、例外的に自ら原資を提供し、かつ連帯納付の履行であることを税務職員に明らかにした場合に限られるとし、本件はいずれにも該当しないとした。 争点4については、相続税法34条1項は受けた利益の限度で責任を限定しており過度な負担を防止する合理性があること、原告らは代償債務の履行を請求できる時期があったのに請求しなかったのは自らの選択であること等から、憲法29条違反とはいえないと判断した。 本判決は、連帯納付義務における「受けた利益の価額」の評価時点を相続税納税義務の確定時点に固定し、事後の遺産分割のやり直しによる遡及的消滅を認めない立場を明確にしたものであり、相続税の徴収確保という制度趣旨と、代償分割実務における債権回収リスク管理の重要性を示す実務上意義の大きい判例である。