著作権侵害差止請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 原告は、平成22年ころから独自にPOSシステム(レジアプリケーション)の開発を進めていたシステムエンジニアであり、平成23年3月、以前同じ職場で勤務した被告代表者に起業相談のため面会した。その際、顧客の携帯電話を注文端末とするモバイルオーダー事業を構想していた被告代表者と協議のうえ、原告プログラムに同機能を追加する改良を行うことになった。被告は平成23年5月に設立され、同年6月以降、飲食店向けに「でんちゅ~」という名称のオーダーシステム(注文・会計・厨房指示等を統合するソフトウェア)を頒布し、利用料金を得てきた。原告は当初、雇用契約や報酬の定めなく開発に従事し、平成24年12月以降は被告の従業員として給与を受け、平成27年7月に退職した。 原告は、自らが遅くとも平成24年5月22日までに完成させた原告プログラムに複製権・翻案権等の著作権があり、退職後も被告が頒布する被告プログラムはその複製または翻案にあたるとして、著作権法112条1項・2項に基づき、被告プログラムの複製・販売・頒布の差止めおよび廃棄を求めた。 【争点】 主たる争点は、(1)原告プログラムの著作物性の有無、(2)原告プログラムが職務著作(著作権法15条2項)にあたるか、(3)被告プログラムが原告プログラムの複製または翻案にあたるか、(4)差止め・廃棄請求の必要性の4点である。とりわけプログラム著作物に求められる創作性の立証の程度が中心的論点となった。 【判旨】 請求棄却。裁判所はまず、プログラムの著作物性を肯定するためには、「指令の表現自体、その指令の表現の組合せ、その表現順序からなるプログラムの全体に選択の幅があり、かつ、ありふれた表現ではなく、作成者の個性、すなわち表現上の創作性が表れていること」を要するとの判断枠組み(知財高裁平成24年1月25日判決)を確認したうえで、これを本件に適用した。 そのうえで、プログラムにより実現される機能自体が新規あるいは複雑であっても、それだけでは創作性を基礎づけるには足りず、定型的・ありふれた指令の組合せを超える独創的な全体構造・処理手順・構成を備える部分がどこにあるのかを、権利者が具体的に主張立証する必要があるとした。 本件において、原告は、スタッフオーダー等で入力された情報をサーバー側プログラムを経由しデータベースで一括管理しレジ・キッチンに出力するという機能の一体性に創作性があると主張するにとどまり、どの指令の組合せに選択の幅があり、いかなる記述が原告の個性の発現かを具体的に示さなかった。他方、被告が提出した書籍等の資料および被告代表者の陳述によれば、原告が開示したレジ・キッチンモニター・マスタメンテナンスのソースコードの多くは、一般書籍やインターネット上に公開されたありふれた指令の組合せであり、変数や条件の配置に選択の余地が乏しいものと認められた。 さらに裁判所は、「でんちゅ~」は平成23年の試験導入以降、原告自身が2年半余り被告の従業員として改良・修正に従事してきた経緯を踏まえ、原告プログラムと現在頒布中の被告プログラムとの間に相当程度の差異がある以上、仮に原告プログラムの一部に創作性が認められる部分があったとしても、それと同一または類似の表現が被告プログラムに残存することを認めるに足る証拠はないとし、この点からも権利行使は許されないと判示した。 本判決は、飲食店向けオーダーシステムという業務ソフトウェアの著作物性について、機能の新規性と表現の創作性を峻別し、権利者側にソースコードレベルでの具体的主張立証を要求した点に実務的意義がある。ありふれた命令文やオープンに流通する記述を超える独創的構造の特定を欠けば、著作権による差止請求は困難であることを示した裁判例である。