特許権侵害行為差止請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、発明の名称を「ネジおよびドライバビット」とする特許権(特許第4220610号)を有していた個人発明家の原告が、ネジ製造業者である被告に対し、被告が製造・販売する「クロスファーム」等のネジが本件特許権を侵害するとして、特許法100条に基づく製造等の差止め及び製品・金型の廃棄を求めるとともに、民法703条に基づき売上高に実施料率を乗じた実施料相当額7200万円(一部請求)の不当利得返還を求めた事案である。本件特許は、ドライバビットがネジ穴から飛び出す「カムアウト現象」を抑制するため、翼係合部の側壁面を、中心側から延びる平面状の基端側部分と、そこから外方に斜めに屈曲した先端側部分との二つの平面で構成する点に特徴がある。口頭弁論終結時には、本件特許権は出願から20年を経過し既に失効していた。 【争点】 主要な争点は、(1) 被告製品が構成要件1D・2A(「ネジの中心側から外方に向かって延びる平面状の基端側部分」)及び構成要件1E・2B(先端側部分の屈曲形状)を充足するか、特に、被告製品のネジ穴中心付近に存在する「食い付き部分」(ドライバビットを押し込んだ際にネジが自重で脱落しないよう設けられる内壁面でJIS規格にも定められた周知技術)が本件発明の「基端側部分」に含まれるか否か、(2) 乙13考案や乙5~8公報に開示された周知技術との組合せにより進歩性を欠き無効となるか、(3) 拒絶査定不服審判段階での意見書(本件意見書1)の記載により、食い付き部分を有する構成が意識的に除外されたといえるか(禁反言の適否)、(4) 不当利得返還請求の可否及び額である。 【判旨】 東京地裁は、本件明細書の従来技術図1において食い付き部分が「翼係合部」や「側壁面」と区別されていること、食い付き部分は回転トルクの伝達にほぼ関与しない周知の付加的構成にすぎないことを踏まえ、本件発明の「基端側部分」には食い付き部分は含まれないと解し、被告製品の符号20a・21aが「基端側部分」に相当するとして構成要件1D・2A、1E・2Bの充足を認めた。また本件意見書1の記載は引用文献との構成上の差異を説明したにとどまり、食い付き部分を有する構成を意識的に除外する趣旨とは解されないとして、禁反言の主張を排斥した。無効主張についても、乙13考案の円弧状先端部を平面状に置き換える動機付けを欠くこと、乙12考案は解決課題が異なり組合せの動機がないこと、食い付き部分は周知の付加構成であり補正要件・サポート要件違反に当たらないことなどを理由にいずれも退けた。もっとも特許権が既に存続期間満了により消滅していたため、差止め・廃棄請求は棄却し、平成20年11月21日から平成30年10月31日までの被告製品売上4557万0242円に実施料率5%を乗じた227万8512円の限度で不当利得返還請求を認容した。請求項の文言解釈に際し、明細書中で従来技術として示された図を通じて用語の外延を画定し、かつ周知技術である付加的構成の存否は構成要件充足を左右しないとした判断は、クレーム解釈における明細書全体の整合的解釈と周知技術の扱いを示す実務上参考となる事例である。