AI概要
【事案の概要】 本件は、いわゆる特殊詐欺(オレオレ詐欺)の被害者である原告A・B・Cが、指定暴力団G会の会長である被告Dと特別相談役の被告Eに対し、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(暴対法)31条の2に基づき連帯損害賠償を求めた事案である。指定暴力団G会H会I一家に所属するFが主導する詐欺グループは、平成28年7月31日から同年8月8日にかけて、被害者の親族になりすまして親族が現金を至急必要としているかのように装い、原告Aから300万円、原告Bから200万円をだまし取り、原告Cに対しても詐欺を試みた(未遂)。原告らは、Fが暴力団の威力を利用して詐欺グループを構成・指揮した行為が暴対法31条の2の「威力利用資金獲得行為」に該当するとして、詐取金相当額・慰謝料・弁護士費用の賠償を請求した。 【争点】 主な争点は、(1)Fが指定暴力団G会の構成員といえるか、(2)会長職を退いて特別相談役となった被告Eが暴対法31条の2の「代表者等」に該当するか、(3)本件各詐欺行為が同条の「威力利用資金獲得行為」に該当するか、特に指定暴力団の威力が資金獲得行為それ自体ではなく、共犯者を集める過程で利用された場合も同条の適用対象となるか、(4)原告らに生じた損害の範囲である。 【判旨】 水戸地裁は、原告A・Bの請求を一部認容し(各363万円・242万円)、原告Cの請求を棄却した。 まず、県警認定・F自身の供述等からFをG会I一家所属の指定暴力団員と認定した。次に、被告Eは会長職を退いた後も特別相談役としてR一家七代目総長の地位を背景にG会の運営に強い影響力を有するとして、「運営を支配する地位にある者」すなわち「代表者等」に該当すると判断した。 最も重要な判示は争点3である。暴対法31条の2は、民法715条の使用者責任の特則として被害者の立証負担を軽減し、配下の指定暴力団員による威力利用資金獲得行為につき代表者等に損害賠償責任を負わせる規定である。同条の「威力を利用」するとは、同法9条の「威力を示す」(相手方への認識を要求)とは異なり、より幅広い行為態様を含む。資金獲得行為それ自体に直接威力が利用される場合(みかじめ料徴収等)のみならず、指定暴力団員がその威力を利用して詐欺グループのメンバーを集めて構成し、同メンバーを利用して資金を獲得する場合も、暴力団の威力を利用することにより権利侵害行為を実現させている点で同条の立法趣旨が妥当するとして、「資金獲得行為の実行に至る過程において威力を利用する場合」も含むと判示した。また、暴対法施行規則が詐欺罪を「暴力的不法行為等」に列挙していないことは、同条の適用を妨げないとした。 本件では、O(受け子勧誘役)がFを指定暴力団員と認識して恐怖心から受け子探しを引き受けた点を捉え、Fが威力を利用してOに共犯者を集めさせ詐欺グループを構成したと認定し、本件各詐欺行為を威力利用資金獲得行為と評価した。損害については、財産的損害のほか、高齢者の親族を案じる心情につけこむ卑劣な手口であるとして財産的損害の1割を慰謝料として認めた。 本判決は、特殊詐欺の被害者が指定暴力団トップに対し暴対法31条の2に基づき責任追及する道を開く点で実務的意義が大きく、近年の詐欺グループが暴力団の威力を背景に非暴力団員を巻き込んで組織化される実態を踏まえ、「威力利用」概念を共犯者組織化の段階にまで拡張した先進的判断である。