発信者情報開示請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、アダルト映像作品の著作権を有すると主張する原告(映像メーカー)が、インターネット接続プロバイダである被告に対し、発信者情報の開示を求めた事案である。何者かが、被告が提供するインターネット接続サービスを経由し、ファイル交換共有ソフトウェア「BitTorrent」を通じて本件映像作品をアップロードし、他のソフトウェア利用者の求めに応じて自動送信し得る状態に置いた。原告は、これにより自らの公衆送信権(著作権法23条1項)が侵害されたと主張し、アップロード行為者(本件利用者)に対する損害賠償請求等を行うためとして、プロバイダ責任制限法4条1項に基づき、被告が保有する本件利用者の氏名・住所・電子メールアドレスの開示を求めた。 【争点】 主たる争点は、プロバイダ責任制限法4条1項の開示要件、すなわち、①原告が本件著作物につき著作権を有するか(著作者性・著作権帰属)、②本件利用者のアップロード行為により原告の権利が侵害されたことが明らかであるか、③被告が「開示関係役務提供者」に該当し発信者情報を保有しているか、④原告に発信者情報の「開示を受けるべき正当な理由」があるか、である。とりわけ、映画の著作物について原告が製作者として発意と責任を有していたといえるか、監督であるB氏との関係でどのように著作権が帰属するかが問題となった。 【判旨】 東京地裁は、原告の請求を全部認容した。まず著作権の帰属について、原告の企画に基づき監督Bが脚本創作や映像編集等の総指揮を行い、制作費はB氏が取締役を務める会社から原告に請求され全額原告が負担したこと、DVD・Blu-rayパッケージや配信サイトで原告の屋号「MOODYZ」や登録商標が付されていることから、原告が本件著作物の製作に発意と責任を有し、BがB氏との合意に基づき全体的形成に創作的に寄与したと認定した。次に、BitTorrentを通じた本件各動画のアップロードによる公衆送信可能化の事実、各IPアドレスと投稿日時の対応、被告がこれらのIPアドレスを本件利用者に割り当てていた事実をいずれも認め、原告の公衆送信権侵害が明らかであるとした。そのうえで、被告が保有する氏名・住所・電子メールアドレスは「権利の侵害に係る発信者情報」に当たり、本件利用者を特定する他の手段は見当たらないから、原告には損害賠償請求権行使のため開示を受けるべき正当な理由があるとして、全情報の開示を命じた。本判決は、ファイル共有ソフトを利用した違法アップロードに関する典型的な発信者情報開示事案であり、映画製作者の発意と責任の認定枠組みを示すとともに、ファイル共有ソフト利用者の匿名性を解除して権利者救済を図る実務運用を裏付けるものとして意義を有する。