AI概要
【事案の概要】 広島原爆の被爆者である原告K(被爆当時2歳、爆心地から約1.5㎞の屋外で被爆)と原告I(被爆当時1歳、爆心地から約2.5㎞の自宅内で母に抱かれて被爆)が、それぞれ厚生労働大臣に対し、原子爆弾被爆者援護法11条1項に基づく原爆症認定(申請疾病と放射線被曝との因果関係の認定)を申請したところ、いずれも却下されたため、処分取消しと国家賠償法1条1項に基づく各300万円の損害賠償を求めた事案である。原告Kは糖尿病及び慢性肝炎(肝機能障害)を、原告Iは慢性腎不全(IgA腎症)を申請疾病としていた。原爆症認定を受けると医療特別手当が支給されるため、その要件充足性が争われた。 【争点】 第一に、放射線起因性の判断枠組み、すなわち立証の程度と具体的判断手法である。第二に、原告Kの糖尿病及び慢性肝炎の放射線起因性と要医療性、特に楠論文等に基づく糖尿病と放射線被曝との関連性、及び肝機能障害の原因(B型慢性肝炎か非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)か)が問題となった。第三に、原告Iの慢性腎不全の原因疾患がIgA腎症か糖尿病性腎症か、及びIgA腎症と原爆放射線被曝との関連性の有無が争われた。第四に、却下処分の国家賠償法上の違法性が争点となった。 【判旨】 裁判所は、放射線起因性の立証について、最高裁平成12年7月18日判決を引用し、高度の蓋然性の証明を要するとしつつ、被曝の程度と疫学的知見に基づく関連性を中心に、他の危険因子等を総合考慮して判断する枠組みを採用した。その上で、原告Kについては、糖尿病と放射線被曝との関連性は一般的には消極に解され、楠論文が指摘する特定のHLAハプロタイプを原告Kが有しないことが判明しており、原告KのNAFLDは成人に広くみられる一般的な疾患であり、慢性肝炎の範疇にも含まれないとして、いずれも放射線起因性を否定し、却下処分は適法とした。他方、原告Iについては、世羅論文・アダムズ論文に依拠し、慢性腎不全と原爆放射線被曝との間には低線量被曝の場合も含め一般的関連性があると認定した。さらに、IgA腎症は慢性糸球体腎炎の約40%を占める最多の糸球体腎炎であり、B細胞によるIgA産生異常という発症機序からみても放射線被曝との関連性を肯定すべきとし、被告主張の危険因子(糖尿病、高血圧、肥満、脂質異常症等)はいずれも重篤でなく起因性を否定しないと判断、被爆時1歳という若年被曝も考慮し、原告Iの申請疾病には放射線起因性と要医療性が認められるとして却下処分を取り消した。国家賠償請求については、最高裁平成5年3月11日判決の枠組みの下、疾病・障害認定審査会の意見に従った処分であり、漫然と却下処分をしたとまでは認められないとして、いずれも棄却した。本判決は、新しい審査の方針の積極認定範囲外の疾病についても、個別の疫学的知見と被曝状況を総合して放射線起因性を肯定した点で、被爆者救済の実務的意義を有するものといえる。