自由発明対価等請求控訴事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、アラキドン酸含有油脂(商品名「アラビタ」)の高次脳機能改善効果に関する発明(本件発明)の共同発明者の一人である金沢大学医学系研究科助教授の控訴人が、同発明に係る特許を受ける権利の自己の持分を、共同出願人であるサントリー株式会社(現・被控訴人サントリーホールディングス株式会社)に譲渡したと主張して、①特許法35条3項(平成27年改正前)に基づく職務発明の相当対価、②譲渡に伴う合理的意思解釈または信義則に基づく合理的対価、③金沢大学とサントリーの一体的関係に照らした特許法35条3項の類推適用による対価、のいずれかとして計1億3500万円余の発明対価等の支払を求めた事案である。 控訴人は、平成15年春頃にサントリーから個人的に研究委託を受け、金沢大学の兼業許可の下、南ヶ丘病院においてアラビタの臨床治験を行い、本件発明を完成させたと主張した。これに対し被控訴人は、本件発明は平成16年11月1日から開始された金沢大学とサントリーの共同研究(本件共同研究)の成果であり、控訴人はサントリーの従業者等ではなく、同社に対する持分譲渡もないと反論した。 原審(大阪地裁)は、平成27年4月以降の国内販売分等に係る訴えを却下し、それ以前の国内販売分に係る請求をすべて棄却したため、控訴人は6000万円及び遅延損害金の請求棄却部分について控訴を提起した。 【争点】 主な争点は、(1)本件発明がサントリーを使用者等とする職務発明に当たるか(特許法35条3項の適用の可否)、(2)本件発明に係る特許を受ける権利の控訴人持分がサントリーに譲渡されたか(譲渡対価請求の前提)、(3)金沢大学とサントリーの一体性を理由とする特許法35条3項の類推適用の可否、の3点である。とりわけ、控訴人と金沢大学の職務との関連性、サントリーとの指揮命令関係の有無、譲渡証書(乙10証書・乙11証書・甲24証書)の法的意味が重要な判断対象となった。 【判旨】 知的財産高等裁判所は、控訴人の請求をいずれも退け、控訴を棄却した。 まず職務発明性について、控訴人は平成15年当時、金沢大学助教授として高次脳機能障害に関する臨床研究を職務としていたこと、南ヶ丘病院での兼業許可申請書には職務内容として「脳神経外科外来及び入院患者の診療」と記載されているにすぎず、アラビタ投与前後の認知機能比較試験まで兼業許可の対象とは認められないことから、当該比較試験は金沢大学における控訴人の職務に属すると認定した。本件共同研究契約書の研究目的・内容は本件発明と一致し、控訴人の分担「神経機能の測定」も比較試験の実施を意味するものと解されるから、本件発明は本件共同研究の対象である。控訴人自ら金沢大学知的財産本部長に発明届出書を提出し共同研究契約書を添付していること、知的財産本部長が職務発明と認定していることも併せると、本件発明はサントリーではなく金沢大学を使用者等とする職務発明と認めるのが相当である。 次に持分譲渡について、本件発明の控訴人持分は金沢大学の職務発明取扱規程に従い同大学に承継されており、乙10証書・甲24証書は控訴人持分の金沢大学への譲渡と共同発明者Bの同意を確認する趣旨で作成されたものと認められ、サントリーが譲受人となる契約の存在や動機は認められない。乙11証書によっても控訴人持分の金沢大学への承継が確認されている。 そうすると、主位的請求(サントリーを使用者等とする職務発明の対価)は前提を欠き、予備的請求1(譲渡に伴う合理的対価)も譲渡事実が認められない以上理由がなく、予備的請求2(35条3項類推適用)も少なくとも持分譲渡を要する点で同様に失当である。以上より、控訴人の請求はいずれも理由がないとして原判決が維持された。本判決は、大学教員が企業の委託・共同研究に関与して生まれた発明の帰属につき、兼業許可の範囲・発明届出手続・共同研究契約の記載を総合考慮して職務発明の使用者等を判定した事例として、産学連携実務における契約設計と職務発明規程運用の重要性を示している。