AI概要
【事案の概要】 大阪市内のホストクラブに勤務していた当時21歳の男性ホストAが、平成24年8月1日早朝、勤務先店舗において飲酒した後に急性アルコール中毒を発症し、死亡時の血中アルコール濃度3.6mg/mlという致死量を摂取した状態で死亡した事案である。Aは平成24年4月頃に本件クラブに雇用され、通信制高校に通いながら学費を稼ぐため入社約4か月の新人ホストとして勤務していた。事故当日、Aは38度の発熱がありながらヘルプとして出勤し、女性客Iの席に着いて接客中、主任かつナンバーワンホストであった先輩Fと先輩Hから「もっと飲めや」「3人で飲み比べをしよう」などと威圧され、焼酎ボトル1本をほぼ一人で飲まされた後、さらにテキーラゴールドをグラスに注がれては一気飲みを強要される行為を執拗に受けた。Aは嘔吐してもなお飲酒を強要され、途中で殴打されるなどの暴行も受け、最終的に放置されたまま泡を吹いて倒れ、救急搬送されたものの死亡した。 Aの両親である原告らは、大阪中央労働基準監督署長に対し労災保険法に基づく療養補償給付(療養費用給付)、遺族補償給付及び葬祭料の請求を行ったが、処分行政庁は業務起因性が認められないとしていずれも不支給処分とした。審査請求及び再審査請求も棄却されたため、原告らは本件各処分の取消しを求めて本件訴訟を提起した。 【争点】 Aの死亡原因となった急性アルコール中毒の発症について業務起因性が認められるか、すなわちAの業務と発症との間に相当因果関係が認められるかが主たる争点である。被告は、本件クラブでは過度の飲酒を禁じる指導を行っていたこと、当日は大量飲酒の業務上の必要性はなかったこと、仮に飲酒強要があったとしても私的な人間関係に基づくいじめであり業務関連性はないことなどを主張した。 【判旨】 請求認容(本件各処分を取り消し)。裁判所は、業務起因性の判断枠組みについて、業務と傷病等との間に相当因果関係が認められるためには、当該傷病等が業務に内在又は通常随伴する危険の現実化として発生したと評価できることが必要であり、同種の平均的労働者を基準に判断すべきとする最高裁判例の枠組みに従うとした。原告らが主張したパワーハラスメントの成立要件に沿った判断枠組みは、制度趣旨や法的効果が異なるとして採用しなかった。 その上で、本件クラブのホスト間LINE記録や亡Aの手帳・メール記録等から、酒に酔わないよう指導があったもののホストが接客業務中に多量飲酒をする営業が事実上黙認されていた実態を認定し、Iの別件民事訴訟での証人尋言の信用性を肯定した。そして、Aが入社約4か月の新人でありFが主任かつ先輩ホストであった立場の格差から、Aが飲酒強要を拒絶することは極めて困難であったと認定した。焼酎の飲酒についてはI保有ボトルの消費と新規注文獲得という売上げ増加につながる業務関連行為であり、テキーラゴールドの飲酒強要についても、締日で売上げを上げる必要があったHらが新たな注文を呼び込む意図で開始した行為と解し得ること、Iが在店し接待業務の必要性があったこと、多量飲酒が黙認される営業実態の中で生じたことなどから、途中で飲酒強要がエスカレートしたとしても業務関連性は否定されないとした。被告主張の私的ないじめ論については、F・HとAとの間に暴力的執拗ないじめを行うだけの人間関係や動機の存在は認め難いとして排斥した。結論として、本件事故当日の飲酒強要及び多量飲酒はホストとしての業務に関連ないし付随して生じた事態であり、Aの急性アルコール中毒は本件クラブにおけるホスト業務に内在又は通常随伴する危険が現実化したものと評価でき、業務起因性が認められるとして、本件各処分を違法として取り消した。飲酒を伴う接客業における飲酒強要型労災の業務起因性判断において、職場の力関係・営業実態・当日の売上事情等を総合勘案して業務関連性を肯定した事例として、実務上重要な意義を有する判断である。