AI概要
【事案の概要】 本件は、原告が「キャリーバッグ」と題する発明について特許出願をしたところ、拒絶査定を受け、これを不服として拒絶査定不服審判を請求したが、特許庁から審判請求不成立の審決を受けたため、その取消しを求めた事案である。本願発明は、従来のキャリーバッグのレバーを引いて移動する際に前傾姿勢となって腕に重みがかかり、かつ前二輪だけに荷重が集中して荷が重いと転がりが重くなるという問題に対し、レバーの取り付け部をキャリーバッグの外側下部に配置し、外レバーの前傾角度を維持調整する機構を設けることで、キャリーバッグを直立したまま移動できるようにしたことを特徴とするものである。これにより腕への負担を軽減し、四輪全体に荷重を分散させて転がりを軽くする効果を謳っていた。 特許庁は、本願発明が登録実用新案第3060008号公報(引用文献1)記載の把っ手構造を有する旅行かばんと、特開2004-81561号公報(引用文献2)記載のゴルフバッグの位置変更切換え機構に基づき、当業者が容易に発明することができたものとして、特許法29条2項の進歩性欠如を理由に拒絶審決を下した。審決は、引用発明における折り曲げアームの傾斜角度維持機構と本願発明の前傾角度維持調整機構との違いを相違点として認定し、その相違点について引用文献2の技術を適用することで容易に想到し得たと判断した。 【争点】 主たる争点は、本件審決における相違点の認定と容易想到性の判断の適否である。具体的には、本願発明のキャリーバッグが「押して移動」するものを含まず、他方で引用発明の旅行かばんが「押して移動」するものに特定されているとして両者の相違点を追加認定すべきか、また、引用発明の折り曲げアームに引用文献2の位置変更切換え機構を適用して角度調整機能を付加することが当業者にとって容易であったかが問われた。 【判旨】 知財高裁は、原告の請求を棄却した。まず相違点の認定について、本願の特許請求の範囲には移動の方向や態様を規定する記載がなく、明細書の実施例3にも外レバーを引いて歩行する態様が示されているものの、これを引いて移動する場合に限定する記載はないとし、本願発明の「移動」は「引いて移動」に限定されず「押して移動」も含まれると解釈した。一方、引用文献1についても、段落0007、0012、0014等の記載から、旅行かばんは「押して移動」のみならず「引いて移動」することも可能なものとして開示されていると認定し、原告主張の相違点は相違点として認められないとした。次に容易想到性について、引用発明の折り曲げアームと引用文献2の位置変更切換え機構は、ともにバッグに対しレバーを傾けた状態で維持する機能・用途において共通し、移動時の使用者の負担軽減という作用でも共通することを指摘した。加えて、使用者の体格や使用態様に応じて傾斜角度を最適化することは自明の要請であるから、当業者が引用発明の折り曲げアームに引用文献2の位置変更切換え機構を適用し、相違点に係る本願発明の構成に想到することは容易であったと判断した。本判決は、特許請求の範囲の記載と明細書全体からクレームの技術的範囲を合理的に画定する特許法70条的解釈手法を明確に示すとともに、近接する技術分野における機能・作用の共通性を根拠とする容易想到性判断の典型例として、日用品分野の特許実務における参照価値を有する。