司法修習生の給費制廃止違憲国家賠償等請求控訴事件
判決データ
- 事件番号
- 平成30行コ5
- 事件名
- 司法修習生の給費制廃止違憲国家賠償等請求控訴事件
- 裁判所
- 名古屋高等裁判所
- 裁判年月日
- 2019年5月30日
AI概要
【事案の概要】 本件は、司法修習生に対する給費制が廃止されたことの違憲性等を争う国家賠償等請求控訴事件である。控訴人らは、平成23年11月に司法修習生を命じられ、平成24年12月に修習を終えた新65期の司法修習生37名である。 司法修習生に対しては、平成16年の裁判所法改正前は、同法67条2項により国から給与が支給される「給費制」が採られていた。ところが、同改正により給費制は廃止され、希望者に修習資金を貸し付ける「貸与制」へと移行した。この貸与制は当初平成22年11月から適用される予定であったが、議論の末、実際の適用は新65期(平成23年採用)以降となった。さらに、平成29年の裁判所法改正(平成29年改正法)では、修習給付金制度(基本給付金13万5000円、住居給付金3万5000円等)を創設する給付金制が導入され、71期司法修習生以降に適用されることとなった。その結果、新65期から70期までの司法修習生は、給費制でも給付金制でも経済的支援を受けられない、いわゆる「谷間世代」となった。 控訴人らは、被控訴人である国に対し、主位的には、平成16年改正が違憲無効であるとして旧裁判所法67条2項に基づく給与の一部支払、及び同改正という立法行為等が国家賠償法上違法であるとして損害賠償金の一部支払を求め、予備的には、憲法29条3項の損失補償請求権に基づく支払を求めた。原審の名古屋地裁は請求をいずれも棄却したため、控訴人らが控訴した。当審では、平成29年改正で谷間世代への救済立法がされなかったことによる新たな権利侵害等が追加主張された。 【争点】 主要な争点は、(1)平成29年改正時に谷間世代への救済措置を講じなかった立法不作為が、給費を受ける権利又は人格的権利を侵害するものとして違憲・違法か、(2)修習給付金の支給対象とされた71期以降との取扱いの差異が、憲法14条1項の平等原則に違反する不合理な差別に当たるか、(3)司法修習生が憲法27条の「勤労」者に該当し、給費制の廃止が同条に違反するか、である。 【判旨】 名古屋高裁は、控訴人らの請求をいずれも棄却した原判決を維持し、控訴を棄却した。 まず、給費制及び給費を受ける権利は憲法上保障された制度・権利ではなく、法曹養成制度の具体的内容は立法府の政策的判断に委ねられているとした。そのうえで、平成29年改正の際に谷間世代に対する救済措置を講じなかったことは、憲法違反でも国家賠償法上の違法でもないと判断した。憲法79条6項・80条2項の裁判官報酬保障規定についても、法曹になろうとする司法修習生まで保障が及ぶとは解せないとした。 14条1項違反の主張に対しては、平成29年改正法による給付金制が、法曹志望者の大幅な減少を踏まえ法曹人材確保の充実強化を図る目的で導入されたものであること、既修習者を対象とすると貸与を受けなかった者の取扱い等制度設計上の困難があること、事後的救済に国民的理解を得ることが困難であること等を考慮し、71期以降と新65期ないし70期との間に差異を設けることに合理的根拠がないとはいえないとして、差別は成立しないと判断した。 憲法27条違反の主張については、同条の「勤労」者の定義を労働組合法3条の労働者概念から導く法的根拠は乏しいとし、仮に収入生活者概念に依拠しても、なお労務の提供とその対価の受領が要件であるところ、司法修習生に労務の提供があるとはいえないとして退けた。 もっとも裁判所は付言として、給費制の果たした役割の重要性と経済的支援の必要性を強調し、谷間世代が貸与金返済を余儀なくされ他の世代に不公平感を抱くのは当然であると指摘した。そのうえで、谷間世代への一律給付等の事後的救済措置は立法政策として十分考慮に値すると感じられるとしつつ、その判断は立法府に委ねざるを得ないと述べ、控訴人らが初心を大切にして法曹としての社会的責任を果たすよう願う旨を付言したのが注目される。