特許権侵害行為差止等請求控訴事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 発明の名称を「マグネット歯車及びその製造方法,これを用いた流量計」とする特許(特許第5554433号。本件特許)の特許権者である控訴人(タカハタプレシジョン株式会社)が,被控訴人ら(株式会社Toshin及び笛吹精工株式会社)の製造・販売するマグネット歯車(被告マグネット歯車)及び同歯車を使用した流量計用指針ユニット(被告ユニット)が本件特許の請求項1に係る発明(本件発明)の技術的範囲に属すると主張して,特許法100条1項・2項に基づき製造販売等の差止め及び半製品等の廃棄を求めるとともに,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償として5830万円及び遅延損害金の連帯支払を求めた事案の控訴審である。 本件発明は,樹脂製歯車のカシメ用突起をマグネット部材の貫通孔に挿通させ熱カシメすることにより,軸部の回転軸線方向に移動可能に間隙を確保してマグネット部材を保持する構成(構成要件E)を特徴とする。原審東京地裁は,本件発明が本件特許出願前に公然実施された原告マグネット歯車(平成21年に控訴人が東京都水道局に納入した水道メータに組み込まれたもの)に係る発明と同一であるとして新規性欠如による無効を認め,控訴人の請求を棄却したため,控訴人が控訴した。 【争点】 主たる争点は,原告マグネット歯車が本件発明の構成要件E(軸部の回転軸線方向に移動可能な間隙の確保)を具備していたか否かである。控訴人は,乙2の事実実験(平成29年8月3日時点)で確認された回転軸線方向の移動量(0.08ないし0.11mm)は約8年間の使用による経年劣化の結果であり,原告通水実験(甲15)の結果(最大0.127mmの拡大)もこれを裏付けると主張した。また,原告作業標準(乙3,10)における「カシメ後の球R先端部からカシメリブ先端までの寸法:0.6〜0.9」の0.3mmの幅は樹脂成形の公差にすぎず,回転軸線方向の間隙を前提としたものではない旨主張した。 【判旨】 知財高裁は本件控訴を棄却した。乙2の事実実験結果から,原告各メータの原告マグネット歯車には平成21年の製造当時において軸部の回転軸線方向に間隙が存在していたことを推認できる。原告通水実験の「無1」「有4」のマグネット歯車については,実験前後の写真を比較するとカシメ部の突起形状及びマグネット部材の角度が異なり,測定箇所(周方向)が異なる可能性が高く,測定結果の正確性・信用性には疑義がある。これらを除いた他の歯車の間隙差は最大0.064mmにとどまり,乙2の移動量を下回る。また原告作業標準は控訴人の意思に基づき作成された文書と認められ,カシメ後に鉄片を左右に振るとマグネット部材がガタつく程度の間隙が生じるように作業工程を管理していたものであって,回転軸線方向の間隙なしにそのようなガタつきが生じるとは考え難い。以上から,原告マグネット歯車は製造当時から構成要件Eを具備していたと認められ,原告各メータは通常利用可能な技術による分解・分析で構造を知り得る状況にあったから,原告マグネット歯車に係る発明は本件出願前に公然実施された発明であって本件発明と同一と認められる。よって本件特許には新規性欠如の無効理由(特許法29条1項2号,123条1項2号)が存在し,控訴人は同法104条の3第1項により被控訴人らに本件特許権を行使することができない。