AI概要
【事案の概要】 被告人は、超硬工具等の製造販売を目的とするA株式会社の技術部門に勤務する中国国籍のエンジニアであり、同社が管理する営業秘密の閲覧・ダウンロード等の権限を付与され、営業秘密を示されていた者である。被告人は、転職活動中、不正の利益を得る目的で、その営業秘密の管理に係る任務に背き、平成31年1月29日、愛知県豊田市所在のA社において、貸与されていた業務用パーソナルコンピュータを操作して同社サーバーにアクセスし、同社の営業秘密であるA設計マニュアルデータ合計164件をダウンロードして同パソコンに保存した上、これをUSBメモリに記録させて複製を作成し、もって同社の営業秘密を領得した。不正競争防止法21条1項3号ロ(営業秘密領得罪)違反として起訴された事案である。 【判旨(量刑)】 被告人を懲役1年2月及び罰金30万円に処する(求刑懲役2年及び罰金50万円)。未決勾留日数中40日を懲役刑に算入する。 本件データは、被害会社の営業秘密の中でも同社の根幹をなす技術にかかわり、経済的価値も特に高く、競業他社に渡れば経営上大きな脅威となるものであって、日本の貴重な技術が違法に海外に流出することを防ぐ意味でも保護の必要性が高い。被告人は、アクセス制限や履歴監視など被害会社の厳格な管理の下で特別に付与されたアクセス権限を濫用し、重要な営業秘密を領得したもので、被害会社の信頼を大きく損なう背信性の高い卑劣で悪質な犯行である。動機についても、被告人は中国の求人サイトで同種事業を行う企業を検索し、あっせん業者に自己の知識・経験と保有資料をアピールして上海所在の企業から内定を得ており、平成30年10月以降6回(本件を含めれば7回)にわたり大量のダウンロードを繰り返していたことからすれば、高い経済的価値を有する本件データの保有をもって転職先を確保し、自らの待遇や評価を高める利欲的目的であったと認められ、酌量の余地はない。「運がよければ高く売れるだろう」「売れるなら売りたい」とのメッセージアプリ上の発言に加え、本件USBメモリの所在についての被告人の供述は曖昧かつ極めて不自然で信用できず、データ流出のおそれは否定できない(ただし流出自体を前提に非難することはできない)。不正競争防止法改正の経緯や技術流出懸念が高い事案であることに鑑みれば、一般予防の見地からも厳しい態度で臨む必要があり、懲役実刑はやむを得ず、相当額の罰金の併科も相当である。他方、前科前歴がないこと、被告人なりに反省の弁を述べていること、被害会社に対して50万円の被害弁償の意思を示したこと等の酌むべき事情を考慮し、主文の刑に処した。