AI概要
【事案の概要】 本件は,医薬品メーカーである原告が,名称を「β-アミロイドの対外的減少のための新規組成物及びその製造方法」とする発明について特許出願をしたところ,特許庁から拒絶査定を受け,これに対する不服審判請求も不成立とされたため,当該審決の取消しを求めた審決取消訴訟である。 本願発明は,アルツハイマー病等のβアミロイドレベルの誘導に関連する病的症状の治療用の改良された透析液製剤を製造する方法であり,捕捉結合剤としての四量体ペプチド(KLVFFのレトロ-インベルソ型)及びポリ(エチレングリコール)架橋キャリアゲルを含む組成物を調製し,これを透析緩衝液と混合するというものである。これに対し特許庁は,米国特許出願公開公報(引用文献1。Aβ結合化合物を透析槽に添加する血液透析によるアミロイド疾患治療法を開示)及びデトックスゲルに関する学術論文(引用文献8。四量体ペプチドとPEGを架橋したゲルがAβ-42に優れた結合能を示すことを開示)に基づき,当業者が容易に発明をすることができたとして,特許法29条2項により特許を受けることはできないとの審決をした。 【争点】 本件の主要な争点は,(1)引用発明の認定の誤りの有無(取消事由1),(2)引用発明と本願発明との一致点・相違点の認定の誤りの有無(取消事由2),(3)引用発明に基づく本願発明の容易想到性の判断の誤りの有無(取消事由3)である。原告は,引用文献1の実施例4は現在形で記載されていて仮説にすぎないこと,引用文献1には「透析液の製造方法」の記載はなく「透析方法」が開示されているにとどまること,apoE3等はAβを「捕捉」する物質とはいえないこと,引用文献1のAβ結合化合物はすべて天然由来であり合成物である四量体ペプチドAを適用する動機付けがないこと,引用文献8のデトックスゲルは生体内存置を前提としており技術分野が異なり阻害要因があること等を主張した。 【判旨】 知財高裁は,原告の請求を棄却した。まず引用発明の認定について,引用文献1の段落[0079]及び[0080]の記載から,透析装置の透析槽に満たされた「特定のミネラルと水の溶液」すなわち透析液にAβ結合化合物を添加することが読み取れ,これを「所望の透析液を製造する工程」と把握することは誤りではないとして,「アミロイド疾患の治療用の透析液を製造する方法」という引用発明の認定を是認した。実施例4が現在形で記載されていても,また apoE3の使用コストが高額であっても,具体的技術思想としての引用発明の抽出は左右されないとした。次に一致点・相違点の認定についても,本願明細書の段落【0091】で「透析液」が「バッファ溶液」と同義と定義されていること等から,引用文献1には本願発明にいう透析液製剤を製造することが記載されていると認められ,審決の認定に誤りはないとした。容易想到性についても,引用発明と引用文献8記載の技術はいずれもAβ結合剤を血液中のAβに結合させて除去する点で技術分野が同一であり,引用文献8には四量体ペプチドA及びPEG架橋キャリアゲルを含む組成物がAβに対し最大の結合能を示すことが記載され,かつ引用文献1にはAβ結合化合物の第2部分としてポリエチレングリコールを用いてよいことが記載されていることから,引用発明に引用文献8記載の技術を適用する動機付けがあると認定した。体内使用が想定されている物質を血液透析で使用することについて阻害要因はなく,むしろ安全性が確認されていれば血液透析でも使用するのが通常であるとし,apoE3が高価であることは代替物を採用する動機付けとなり,本願発明が主張する顕著な効果(特定結合作用,膜性能非依存,高結合能プロセス,免疫反応排除)も引用発明及び引用文献8から予測し難い格別のものとは認められないとして,進歩性欠如の審決を支持した。