労災保険遺族補償給付等不支給処分取消請求事件
判決データ
- 事件番号
- 平成28行ウ63
- 事件名
- 労災保険遺族補償給付等不支給処分取消請求事件
- 裁判所
- 福岡地方裁判所
- 裁判年月日
- 2019年6月14日
- 裁判官
- 鈴木博、酒井直樹
AI概要
【事案の概要】 本件は、愛媛県宇和島市に本件営業所を置く株式会社Bに勤務し、養殖業者に対する魚薬の営業販売等に従事していた亡A(死亡当時47歳)が、出勤後の営業車内で意識不明となり、心室細動を原因とする急性心不全により死亡したところ、亡Aの妻である原告が、死亡は取引先社長からのストレスに晒されながらの長時間の過重労働や海上での過酷な消毒業務に起因すると主張し、労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付、葬祭料及び療養補償給付の各請求に対していずれも不支給とした宇和島労働基準監督署長の処分の取消しを求めた事案である。亡Aは大口取引先である有限会社Cを中心に、魚薬の営業販売だけでなく投薬作業の立会指導、養殖魚の尾数把握や給餌管理、従業員指導等も担い、本件営業所売上の約22.5%(うちCが66%)を稼ぎ出していた。Cの社長は気分屋で、叱責や出入り禁止を頻繁に告げ、実際に競合他社や飼料業者等を出入り禁止としていた。発症直前2日間(平成26年2月5日、6日)は、気温3〜7度台、日照時間ほぼ皆無の中、生け簀上でライフジャケットを着用せず投薬・網引き作業に従事していた。 【争点】 亡Aの急性心不全が業務により生じたといえるか(業務起因性の有無)であり、具体的には、(1)短期間の過重業務の有無、(2)長期間の過重業務の有無、(3)業務以外の要因(基礎疾患等)の有無が争われた。 【判旨】 本件不支給決定をいずれも取り消した。裁判所は、脳・心臓疾患の認定基準を尊重しつつ、以下のとおり判断した。短期間の過重業務については、発症前1週間の時間外労働27時間52分は他時期と比較して特に過度とはいえず、発症5日前に休日も確保されていたから継続した長時間労働とは認められない。発症直前2日間の消毒作業は、営業職の亡Aにとって厳しい作業環境下で肉体的疲労・精神的緊張が大きい面があったが、客観的に作業困難なほどの時化ではなく、普段と全く異質の業務ともいえないから、短期間の過重業務とまでは認められない。他方、長期間の過重業務については、休憩1時間を控除しても発症前1か月71時間33分、5か月105時間20分、月平均70時間15分の時間外労働が認められ、8時間の基準には至らないものの相当な長時間労働が継続していた。加えて、Cの社長の信頼を損なえば自己及び本件営業所の売上に重大な影響が及ぶ関係にあったところ、平成25年7月のM担当者の出入り禁止以降、投薬指導等の負担が増加しMの助力も得られない状態となり、所長に営業員増員を求めたが容れられないまま訪問回数を減らすことも困難であったといった恒常的な精神的緊張は、例年に比して相当大きくなっていたと認められる。これらに発症直前2日間の厳しい作業環境での消毒業務を併せ考慮すると、業務と発症との間には相当程度の関連性があり、業務には心臓疾患を発症するような過重性が認められる。業務以外の要因については、亡Aに高トリグリセライド血症、喫煙、肥満等の複数のリスクファクターが存したものの、P医師意見書及びQ医師意見書によれば、これらが心室細動の発症に与えた具体的影響は不明であり、急性心筋梗塞の発症自体が確定されないから、明らかに業務以外の原因により発症したとは認められない。よって、亡Aの急性心不全は業務起因性を有し、労働基準法施行規則別表第1の2第8号に該当するから、業務起因性を否定した本件不支給決定はいずれも違法である。