AI概要
【事案の概要】 被告人が、共犯者3名及び氏名不詳者らと共謀の上、営利の目的で、平成30年10月4日、名古屋市内の倉庫内において、覚せい剤であるフエニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する結晶約306.0511kg及び同フエニルメチルアミノプロパンを含有する結晶約33.5376kgを所持したとして起訴された事案である。被告人は、平成29年10月頃、台湾所在のタイヤホイール製造会社社長を名乗るF氏から、F1用タイヤホイールの日本販売に用いる倉庫の賃借を依頼され、平成30年8月20日、E商会名義で本件倉庫を賃貸借契約を締結した。被告人は、9月19日に名古屋税関西部事務所で本件ホイール192本の輸入申告を行い、10月2日に自ら段ボール入りのホイールを本件倉庫に搬入し、同月3日に倉庫を施錠して出国した際、知人Dに不在中の見回りを依頼していた。10月4日、Dの通報を受けた警察官が臨場したところ、共犯者A、B、Cがホイールからアルミホイールを取り外す作業をしており、アルミホイール内にビニール袋入りの覚せい剤が隠匿されていたため、警察官は覚せい剤を差し押さえ3名を現行犯逮捕した。 【争点】 主な争点は、(1)被告人が本件覚せい剤を所持していたか、(2)被告人が本件倉庫内に覚せい剤が隠匿されていると認識していたか、(3)共犯者との共謀の有無、(4)営利目的の有無である。とりわけ争点(2)の覚せい剤隠匿についての認識の有無が中心的な争点となった。検察官は、本件ホイールが製造番号のない非正規品であり、高額な費用・人手・手間をかけて大量に輸入されたことから被告人は違法物品の密輸を認識し得たこと、F氏からの依頼内容や行動(取引実績のない被告人への依頼、賃料使い込み後の再依頼、サンプル用ホイールの引渡未了のまま192本を輸入したこと等)が不自然であったこと、機械警備契約を締結していたことなどを根拠に、被告人が覚せい剤の隠匿を認識していたと主張した。 【判旨(量刑)】 裁判所は、争点(1)については、被告人が本件倉庫を管理し本件ホイールを保管していた以上、その内部に隠匿された覚せい剤についても所持していたと認め、10月4日に本件倉庫にいなかったとの弁護人主張を退けた。しかし争点(2)については、被告人が本件ホイールの取引が正常でないことを認識していたと推認できるものの、そのことから直ちに何らかの物質の隠匿に思い至るのが当然とはいえず、被告人は本件ホイールを模造品と認識していた可能性が否定できないとした。模造品であれば廉価が通常であるとの検察官の指摘に対しても、正規品と偽って販売できれば192本という数量からも費用労力に見合う利益を得られ得るから、多額の費用投入が直ちに模造品の認識と矛盾するとはいえないとした。さらに、被告人が機械警備契約を締結し、Dに本件倉庫の見回りを依頼したことは、かえって覚せい剤隠匿の発覚可能性を高める行動であり、隠匿を認識していたとすれば不合理な行動ともいえると指摘した。結局、被告人が覚せい剤を含む違法薬物の隠匿を認識していたと認めるには合理的な疑いが残るとして、その余の争点について判断するまでもなく犯罪の証明がないことになるので、刑訴法336条により被告人に無罪を言い渡した(求刑は懲役10年、罰金350万円及び覚せい剤の没収)。