AI概要
【事案の概要】 本件は、国立大学法人が設置・運営するA病院(被告病院)心療内科を受診していた原告(平成元年生まれの女性)が、頭部CT検査の結果により脳腫瘍(中枢性神経細胞腫)の疑いを指摘されていたにもかかわらず、同科医師らがこれを見落として脳腫瘍を放置したため、腫瘍が著しく拡大して水頭症を発症し、重篤な後遺障害が残ったとして、被告に対し債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償約1億9700万円及び遅延損害金の支払を求めた医療過誤事案である。 原告は、平成18年10月、神経性食欲不振症制限型の治療のため被告病院心療内科に入院した際に頭部CT検査を受け、放射線科医師から第一に中枢性神経細胞腫が疑われる旨の報告書が作成されたが、心療内科医師らはこの指摘を見落とし、以後約5年間にわたり脳腫瘍を放置した。平成23年11月末に転倒を契機として他院でMRI検査を受けたところ、脳梁部から第3脳室に伸びる腫瘍と水頭症が判明し、平成24年1月に補助参加人医院において脳腫瘍摘出術を受けた。その後も水頭症やシャント感染等の合併症に悩まされ、平成27年6月、後遺障害等級2級相当の脳腫瘍・水頭症・高次脳機能障害との診断を受けた。被告病院医師らが検査報告書の指摘を見落として脳腫瘍を放置した過失(本件過失)自体には争いがなく、本件過失と原告の後遺障害との因果関係、損害額、弁護士費用部分に係る消滅時効が争点となった。 【争点】 本件過失と原告の後遺障害との因果関係、損害額、弁護士費用部分に係る不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効の成否。被告は、脳腫瘍摘出術には一定割合で合併症が生じる以上、早期発見でも後遺症は避けられなかった、本件手術における脳弓損傷や補助参加人医院でのシャント感染管理の問題が現在の症状の原因である等と主張した。 【判旨】 福岡地裁は、請求を一部認容し、被告に対し約1億5748万円及び遅延損害金の支払を命じた。因果関係については、本件過失がなければ原告は定期的な経過観察により早期に腫瘍摘出術を受けられた蓋然性が高く、一般に腫瘍が小さい方が手術による機能予後低下や合併症の確率は低いとされることから、適時に摘出術が行われていれば症状固定時の高度の後遺症が残存していた可能性は低いとし、本件過失と後遺障害との因果関係を肯定した。本件手術における脳弓損傷の有無や補助参加人医院のシャント管理については、仮に脳弓損傷があったとしても本件過失により手術難度が格段に高まった結果であり、またシャント術の合併症は相応の頻度で生じるもので、いずれも本件過失との因果関係を遮断するものではないとした。損害額については、原告を後遺障害等級2級相当と認め、基礎収入を平成25年賃金センサスの女性大学・大学院卒年額440万余円として逸失利益約7620万円、後遺障害慰謝料2370万円、将来介護費約2771万円等を認定した。消滅時効については、請求の一部であることを明示せずに訴えを提起した場合には債権全体について時効中断効が生じるとする最高裁昭和45年判決を引用し、弁護士費用部分についても消滅時効は完成していないと判断した。