AI概要
【事案の概要】 原告ら4名は、それぞれ息子を装う「オレオレ詐欺」の電話を受け、息子が妊娠トラブルの示談金や弁護士費用を至急必要としていると誤信して、指定された口座に合計300万円〜400万円を振り込み、これを詐取された。詐欺を実行した特殊詐欺グループの中心人物Eは、指定暴力団稲川会傘下の三次組織である習志野一家F組の構成員であった。 そこで原告らは、稲川会の会長として同会を代表する被告に対し、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(暴力団対策法)31条の2本文、又は予備的に民法715条1項(使用者責任)に基づき、詐取された金員相当額、慰謝料、弁護士費用の損害賠償を求めた。 暴力団対策法31条の2は、指定暴力団員が威力利用資金獲得行為を行うについて他人に損害を与えた場合、当該指定暴力団の代表者等に無過失責任を負わせる規定であり、山口組や住吉会の会長に対しても同種の提訴がなされている。本件は、特殊詐欺という暴力団の威力を直接被害者に示さない犯罪類型について、同条の適用が認められるかが問われた事案である。 【争点】 争点は多岐にわたるが、主要なものは、(1)Eが本件各詐欺当時F組の構成員(指定暴力団員)であったか、(2)本件各詐欺が稲川会の「威力利用資金獲得行為」を行うについてされたものといえるか、である。 被告側は、Eは組長と盃事を取り結んでおらずF組員ではないと主張し、また仮に組員であったとしても、同条にいう「威力を利用して」とは被害者に対し直接威力を示すことを意味すると限定解釈すべきであり、被害者と接触していないEの詐欺は同条に当たらないと争った。 【判旨】 東京地裁は、原告らの請求を一部認容した(認容額は各自の損害額の約8割〜9割相当)。 まず争点(1)について、警視庁・千葉県警察の捜査情報でEがF組構成員として把握されていたこと、E自身や共犯者Hが刑事手続でEのF組所属を述べていたこと、Eが習志野一家事務所の当番やみかじめ料集金といった組員の任務を行っていたこと、収監中のEに習志野一家の事務局長・F組長らが繰り返し面会し信書を授受していたことなどを総合し、盃事を経ていないことを考慮してもEはF組の構成員であり、稲川会の指定暴力団員に当たると認定した。 次に争点(2)について、裁判所は、暴力団対策法31条の2本文の「威力を利用して」は被害者に対し威力を示すことに限られないと明示した。近年、暴力団構成員が従来の威力を示す資金獲得活動への規制・取締りを回避するため、新たな資金源として組織的に特殊詐欺に加担している実態が社会一般に認識されており、稲川会も日本第3位の指定暴力団として下部組織を含めこのような特殊詐欺に従事する構成員が多数いたと認識されていたと指摘。本件各詐欺は役割分担による組織的・計画的な犯行で、暴力団構成員が加担する威力利用資金獲得活動に通有する類型であるとして、Eが本件詐欺を実行した以上、これは「威力利用資金獲得行為を行うについて」なされたものに当たるとした。 さらに争点(3)(免責事由)についても、稲川会総本部が特殊詐欺への関与禁止を通知した事実のみでは、被告が間接的にも資金を得ることがなかったとは認められないと判断し、免責を否定した。 損害額については、財産的損害は詐取額満額、慰謝料は財産的損害の1割、弁護士費用は両者の合計の1割として算定し、原告A・Bに各363万円、原告Cに302万5000円、原告Dに484万円の支払を命じた。 本判決は、特殊詐欺という被害者に直接威力を示さない犯罪類型についても、暴力団対策法31条の2による暴力団トップの損害賠償責任を認めた点で、実務上重要な意義を有する。