再審開始決定に対する即時抗告棄却決定に対する特別抗告事件
判決データ
- 事件番号
- 平成30し147
- 事件名
- 再審開始決定に対する即時抗告棄却決定に対する特別抗告事件
- 裁判所
- 最高裁判所第一小法廷
- 裁判年月日
- 2019年6月25日
- 裁判種別・結果
- 決定・その他
- 裁判官
- 小池裕、池上政幸、木澤克之、山口厚、深山卓也
- 原審裁判所
- 福岡高等裁判所_宮崎支部
AI概要
【事案の概要】 本件は、昭和54年10月に鹿児島県内で発生した殺人・死体遺棄事件(いわゆる大崎事件)について、確定判決で有罪とされた被告人の長女が、父の死後に無罪を言い渡すべき明らかな証拠を発見したとして請求した第3次再審請求に関するものである。 確定判決の認定事実によれば、Aの妻Qは、日頃から飲酒のうえ暴言を吐くなどしていた義弟Cに反感を抱いていたところ、昭和54年10月12日夜、酩酊して前後不覚となっていたCをこの機会に殺害しようと決意し、夫A及びAの弟Bと共謀のうえ、Cを殴打・足蹴りした後、Aが西洋タオルでCの頸部を絞め付けて窒息死させ、翌未明、Bの長男Dも加えた4名で死体をC方牛小屋の堆肥内に埋没させて遺棄したというものである。A・B・Dは公訴事実を認めて確定したが、Qは一貫して関与を否定しつつも有罪が確定した。 第1次再審請求(Q本人)では、鹿児島地裁が再審開始を決定したが、福岡高裁宮崎支部が取り消し、特別抗告も棄却された。第2次再審請求(請求人とQの併合審理)も棄却された。本件第3次再審請求では、新証拠として、法医学者O教授による鑑定書(O鑑定、死因は転落による出血性ショックの可能性が高いとするもの)と、供述心理学の立場からB妻Eの供述を分析したM・N新鑑定が提出された。原々審(鹿児島地裁)は再審開始を決定し、原審(福岡高裁宮崎支部)もこれを是認して検察官の即時抗告を棄却したため、検察官が特別抗告に及んだ。 【争点】 O鑑定及びM・N新鑑定が、刑訴法435条6号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に当たるか、すなわちこれら新証拠が新旧全証拠との総合評価により確定判決の事実認定に合理的疑いを生じさせるに足りるか否かが争点となった。 【判旨】 最高裁は、原決定及び原々決定をいずれも取り消し、本件再審請求を棄却した。 まず、確定判決の認定の主たる根拠について、Cの死体が堆肥中に完全に埋没した状態で発見された事実、C方はA方・B方に隣接し夜間の立入者は限定されること、QとCの間に確執があったことなどの客観的状況と、A・B・Dの各自白及びEの目撃供述が相互に支え合っていると整理した。 そのうえで、O鑑定については、死体が腐敗して解剖時点で既に不鮮明な所見が多く、O教授が死体を直接検分せず12枚の写真とI旧鑑定等の情報のみに依拠していること、P鑑定により絞殺でも鬱血が乏しい場合があること、出血性ショックの原因として挙げる腎損傷等が切開もされていない部位についての単なる可能性の指摘にとどまること、溝への転落以外の外力可能性を十分検討していないこと、死亡時期についても明確な判断を示していないこと等を指摘し、科学的推論に基づく仮説的見解として尊重すべきではあるものの、死因・死亡時期に関する認定に決定的な証明力を有するとまではいえないとした。 そして、原決定が、O鑑定を根拠にCが同人方到着前に死亡・瀕死状態であった可能性を認めた結果、G・Hの供述の信用性を否定し、A・B・Dの各自白及びEの目撃供述の信用性にまで重大な疑義を生じさせたのは、客観的状況に照らせばCの死体を堆肥に埋めた犯人をG・H以外に想定し難いという不合理な帰結を招くものであり、O鑑定の限界を十分考慮しないままこれを過大評価し、実質的な総合評価を行わなかった点で不合理であると断じた。M・N新鑑定についても、供述信用性判断の視点を提示するにとどまり、捜査外在的条件を考慮外に置くなど限定的意義しか持たないとして、Eの供述の信用性に影響を及ぼさないとした原決定の判断を是認した。 以上によれば、O鑑定にM・N新鑑定その他の新証拠を併せても、確定判決の事実認定に合理的疑いを抱かせるに足りるものとはいえず、これらを刑訴法435条6号の「明らかな証拠」に当たると判断した原々決定及び原決定には同号の解釈適用を誤った違法があり、決定に影響を及ぼすことが明らかで著しく正義に反するとして、刑訴法411条1号を準用し職権により取り消したうえ、再審請求を棄却した。白鳥・財田川決定以来の再審の判断枠組みの下で、新証拠の証明力を過大評価せず、確定判決を支える他の証拠と対比しながら総合評価すべきことを改めて示した先例として意義を有する。