現住建造物等放火被告事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、北海道苫小牧市所在の木造2階建共同住宅(床面積合計約170平方メートル)の2階奥の自室に放火し、約66.95平方メートルを焼損させたとして、現住建造物等放火罪に問われた事案である。同建物にはほか3名が住居として使用しており、犯行時には2名が現在していた。 被告人は、かねてから同居の母親Aとのもめ事で警察官や消防が臨場する事態を繰り返し引き起こしていた。事件当日昼にも母親との間でもめ事が生じ、臨場した警察官の説得により母親は外泊することとなった。被告人は母親が戻ってこないことへの不安を募らせ、110番通報や警察署への電話を20回以上繰り返して母親を連れ戻すよう要求したが受け入れられなかった。そうした中で午後11時28分頃、被告人方から火災が発生した。 被告人は、灯油をまいたことも火をつけるつもりもなかったと供述し、争点は、①火災の原因が被告人の放火行為によるものか、②仮に放火であるとして、被告人に完全責任能力が認められるかの2点であった。 【争点】 第1の争点(放火行為の有無)について、裁判所は、火災当時被告人方屋内にあった灯油は玄関のポリタンクとストーブ内タンクのみで給油は普段母親が行っていたこと、火災翌日の実況見分で居間中央部が出火部と特定され広範囲に油分と油臭が認められたこと、火の回りが早く相当量の燃料が介在したと認められることから、居間に日常生活では生じ得ない量の灯油が存在していたと認定した。また、火災直前に被告人と電話していた警察官の証言(被告人が「ママの服に灯油かけたぞ」「火をつけるぞ」「今、火つけたぞ」と発言し、直後にプシューという音や火災警報器の警報音が聞こえた旨)は具体的かつ迫真性に富み信用できるとし、被告人自身が灯油を散布したうえ放火したものと強く推認できると判断した。被告人の不合理な供述は排斥された。 第2の争点(責任能力)について、精神鑑定を担当したD医師は、被告人には軽度の知的障害と情緒不安定性人格障害が認められるが、いずれも善悪を判断する能力や行動を制御する能力に大きな影響は及ぼさないと証言した。裁判所は、被告人が火災発生後に隣室を訪れ避難を告げ自ら119番通報するなど周囲の状況を把握した合理的行動をとっていたことも踏まえ、D証言の信用性を認め、被告人が心神耗弱の状態にはなかったと判断した。 【判旨(量刑)】 札幌地方裁判所は、被告人を懲役4年(求刑懲役5年)に処し、未決勾留日数中100日を刑に算入した。量刑については、高齢住民2名が現在する木造2階建アパートに相当量の灯油をまいて放火し、隣人が2階からの飛び降りを余儀なくされる事態を生じさせたこと、焼損が隣室にまで及びアパートが取壊しとなるなど財産的被害も大きいこと、住宅密集地で更なる被害の危険があったことなどを重くみた。他方、情緒不安定性人格障害により母親との長時間の引き離しで感情が高ぶり後先考えずに犯行に及んだこと、犯行の衝動性を高めた原因として一定程度考慮に値することを指摘した。さらに、別人格であったなどと不合理な弁解をして真摯に向き合っていないこと、母親との関係改善の環境も整っていないことを踏まえ、刑法66条、71条、68条3号による酌量減軽の上、法定刑の下限(5年)を下回る懲役4年の実刑が相当と結論づけた。