都道府県を選択して、裁判官を探すことができます

全国 2522 人の裁判官3147 件の口コミ
知財

審決取消請求事件

判決データ

事件番号
平成30行ケ10045
事件名
審決取消請求事件
裁判所
知的財産高等裁判所
裁判年月日
2019年6月26日
裁判官
鶴岡稔彦山門優高橋彩

AI概要

【事案の概要】 本件は、米国の製薬会社であるアレクシオン・ファーマシューティカルズが原告、中外製薬株式会社が被告となり、被告が保有する抗体医薬に関する特許(特許第5824095号、名称「複数分子の抗原に繰り返し結合する抗原結合分子」)の無効審判請求を不成立とした特許庁の審決の取消しを求めた審決取消訴訟である。 本件特許の対象は、抗体の可変領域の少なくとも1つのアミノ酸をヒスチジンに置換し、または少なくとも1つのヒスチジンを挿入することにより、血漿中(pH7.4)と細胞内エンドソーム内(pH5.8)との間で抗原への結合親和性に差(pH依存性)をもたらした抗体を含む医薬組成物である。通常の抗体医薬は1分子の抗体で1分子の抗原しか中和できないが、pH依存的結合特性を持つ抗体は、血中で抗原を捕捉した後、細胞内の酸性環境下で抗原を放出し、再び血中に戻って別の抗原に繰り返し結合することができる。この特性により、抗体の薬物動態が向上し、投与量の低減や薬効持続の延長が可能になるとされる画期的な技術である。 原告は、本件特許に対し、実施可能要件違反、サポート要件違反、新規性欠如、進歩性欠如、拡大先願違反、明確性要件違反等を理由に無効審判を請求したが、特許庁はいずれの無効理由も認めず請求不成立の審決をしたため、原告が審決取消訴訟を提起した。 【争点】 主要な争点は、本件特許の明細書の記載が、当業者が過度の試行錯誤を要することなく本件発明を実施できる程度に十分であるか(実施可能要件の充足)であった。本件発明は、元の抗体の種類やヒスチジン置換・挿入の位置・数について何ら限定がなく、所定のpH依存的結合特性を有するあらゆる抗体を包含する極めて広範なものであったため、その広範な権利範囲全体について明細書が実施可能な程度に記載されているかが問われた。 【判旨】 知的財産高等裁判所第3部は、本件審決を取り消すとの判決を言い渡した。 裁判所はまず、本件発明1の技術的範囲には、元の抗体及びヒスチジン置換・挿入の位置や数について限定がない以上、所定のpH依存的結合特性を有するあらゆる抗体を含む医薬組成物が含まれることを確認した。その上で、本件明細書に記載された実施例のうち、実施例2(ホモロジーモデリングにより立体構造を予測して変異箇所を選定する方法)は、構造既知のテンプレート抗体の情報がある場合にしか用いられず、構造未知の抗体一般には適用できないと判断した。 次に実施例3(ヒスチジンスキャニングの二段階スクリーニング法)についても、「CDRの残基をヒスチジンに置換しても結合能に大きな変化がない箇所」から所望の置換位置を選定する方法が記載されているにとどまり、本件発明のヒスチジン置換箇所が必ずその範囲に含まれるとはいえないと認定した。 被告は、抗体の可変部位のアミノ酸残基220個を1つずつ網羅的にヒスチジン置換する「ヒスチジンスキャニング」によって本件発明を実施できると主張したが、裁判所は、そもそも本件明細書にこの手法による置換位置特定の具体的基準が記載されていない点を指摘した。さらに、本件出願日後の文献(甲45)を引用し、単独ではpH依存性を示さない、あるいはむしろ低下させるヒスチジン置換位置であっても、他の位置と組み合わせることで初めてpH依存的結合特性を発揮する箇所が存在することを示し、単独の置換位置を組み合わせるだけでは複数置換抗体のヒスチジン置換位置を常に特定できないとした。 結論として、本件明細書の発明の詳細な説明には、当業者が過度の試行錯誤を要することなく本件発明を実施できる程度の記載がなく、本件発明は実施可能要件(特許法36条4項1号)に適合しないと判示し、これを認めなかった本件審決には誤りがあるとして、その取消しを命じた。 本判決は、抗体医薬分野における広範なクレームの実施可能要件の充足性について厳格な判断基準を示したものであり、バイオ医薬品の特許保護の限界を画する重要な先例となる。

※ この概要はAIが判決全文をもとに自動生成したものです。内容の正確性には十分注意していますが、誤りが含まれる可能性があります。正確な内容は原文をご確認ください。
判例データの一部は CaseLaw LOD(国立情報学研究所、CC BY 4.0)を利用しています。