AI概要
【事案の概要】 本件は、人工知能技術に関する特許を保有する個人原告が、米国IPsoft社の関連会社である被告(IPsoft Japan株式会社)に対し、特許権侵害に基づいて4500万円の損害賠償と、被告が販売等する人工知能製品「アメリア(Amelia)」の製造・譲渡等の差止めを求めた事案である。原告は、①自律型思考パターン生成機(本件特許1)、②自律型知識向上装置(本件特許2)、③自律型知識分析器(本件特許3)の3件の特許権を有しており、これらはいずれも入力情報を「パターン」(計算機が識別できる信号の組合せ)に変換し、自律的に知識を獲得・拡張していく人工知能技術に関する発明である。他方、アメリアは米IPsoft社が開発した対話型AIプラットフォームで、自然言語処理によりコールセンター業務等を自動化する製品である。被告は日本オラクルと連携して本件製品を国内展開しており、パンフレットに問合せ先として表示され、セミナーで展示・PRを行うなどしていた。原告は、アメリアが「感情的な対応力」を備え表情を変化させる点などを捉え、本件各発明の技術的範囲に属すると主張し、特許法100条1項に基づく差止めと同法102条3項に基づく損害賠償を求めた。 【争点】 主要な争点は、(1)被告による本件製品の日本国内での実施行為(譲渡の申出等)の有無、(2)本件製品ないしこれをインストールした装置が本件各発明の技術的範囲に属するか、特に本件発明の中核概念である「パターン」および「パターンの変換」「パターンの変更」をアメリアが実装しているか、(3)本件各特許の無効理由の有無、(4)差止めの必要性および損害額である。とりわけ構成要件充足性の判断では、本件装置がアメリアの表情画像を表示する機能を有することが「画像情報をパターンに変換するパターン変換器」(構成要件1A)を備えることに当たるか、既に記録済みの信号を扱うことが「パターンの変更」(構成要件1B・3C)に該当するかが争われた。 【判旨】 東京地裁は、被告による譲渡の申出自体は認定しつつも、構成要件充足性を否定して原告の請求を全部棄却した。まず争点1について、被告は平成27年頃以降、本件製品の日本語版パンフレットに問合せ先として表示され、日本オラクル主催セミナーでアメリアを展示しPRを行っていたことなどから、遅くとも平成27年頃には本件製品の譲渡又は貸渡しの申出を行っていたと認定した。被告が「便宜的な窓口にすぎない」と主張した点は、当時の代表取締役が本件製品の特徴や提携内容について具体的に説明していたこと等から排斥された。もっとも、本件発明の構成要件充足性については原告の主張をいずれも否定した。すなわち、本件発明1における「パターン」とは、画像・音声・言語の事象の特徴を計算機が識別できる「1」「0」等の信号の組合せに変換したものを意味するところ、アメリアが感情に対応した表情画像を予め保有し状況に応じて表示できるとしても、外部から入力された画像をパターンに変換する機能を有すると認めるに足りる証拠はなく、構成要件1Aを充足しない。また「パターンの変更」(構成要件1B)は、既に記録された信号の組合せ自体を変更することを意味するが、既存のパターン信号は既に情報と対応付けられているため改めて変更する必要性が乏しく、本件装置がかかる機能を有するとは認められないとした。本件発明2・3についても同様の理由で技術的範囲への属否を否定し、無効理由・差止めの必要性・損害額につき判断するまでもなく請求を棄却した。本判決は、AI関連特許の技術的範囲を画する「パターン」概念について、明細書記載に即して計算機識別可能な信号の組合せと厳格に解釈し、表情画像の表示機能などを広く取り込む原告の解釈を退けた点に実務的意義がある。