発信者情報開示請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、夜景写真家である原告が、インターネット接続サービスを提供する電気通信事業者である被告(株式会社NTTぷらら)に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法)4条1項に基づき、発信者情報の開示を求めた事案である。 原告は、横浜ベイブリッジを夕方にデジタル一眼レフカメラで撮影した写真を、自ら管理する「夜景INFO」というウェブサイトで公開していた。本件投稿者は、平成30年7月28日、株式会社カービューが運営するブログサービス「みんカラ」上で、自動車のカスタマイズ記事を投稿した際に、原告撮影の写真(本件画像)を無断で掲載した。原告は、本件投稿者に対し著作権(複製権及び公衆送信権)侵害に基づく損害賠償請求を行うため、被告に対しIPアドレスを使用した発信者の氏名・住所・メールアドレス等の開示を求めた。 発信者情報開示請求は、匿名で行われるインターネット上の権利侵害について、被害者が加害者を特定して法的責任を追及するために不可欠な制度であり、その要件として、権利侵害の明白性と開示を求める正当な理由が求められる。 【争点】 争点は、(1)本件投稿による権利侵害の明白性(本件画像の著作物性、著作権の帰属、適法な引用の成否等)、(2)本件発信者情報が本件投稿による侵害に係る発信者情報といえるか、(3)開示を求める正当な理由の有無、である。特に被告は、本件画像の著作物性を否定するとともに、仮に著作物であっても適法な引用(著作権法32条1項)に当たると主張し、また、ログインIDが複数人で共有されていた可能性やIPアドレスの割当てが変動した可能性を指摘して、本件IPアドレスの使用者と本件投稿者の同一性を争った。 【判旨】 裁判所は、本件画像について、横浜ベイブリッジを中心とする風景を、手前の陸地が映らないようにし、背後の風景や月を取り込むなど、構図・アングル等を工夫して撮影されたものと認め、写真の著作物性を肯定し、原告を著作者かつ著作権者と認定した。 適法な引用の成否については、本件投稿者が本件画像を夜間ライトアップされた横浜ベイブリッジの様子の例として使用したにすぎず、使用の必要性が高いとはいえないこと、本件記事において本件画像の出所や撮影者が本件投稿者以外であることが明示されていなかったことを指摘し、引用の目的上正当な範囲内とも公正な慣行に合致するとも認められず、著作権法32条1項の適法な引用には該当しないと判断した。 発信者の同一性については、カービューからの回答内容、投稿時刻(20時11分)に本件IPアドレスからのアクセスが存在したこと、断続的な利用時に同一IPアドレスが連続して割り当てられる傾向があることを被告も認めていることから、本件投稿は本件IPアドレスからされたものと認定した。ID共有の可能性やIP割当て変動の可能性という被告の主張は、いずれも抽象的な可能性を指摘するに留まり、上記認定を覆さないとした。 以上から、権利侵害の明白性、発信者情報該当性、開示を求める正当な理由がいずれも認められるとして、原告の請求を全部認容した。本判決は、他人撮影の写真を自己の記事の装飾・例示目的で使用する場合に、出所明示を欠けば適法な引用に当たらないことを明確にした点、及び投稿時刻前後のIPアドレスの同一性から投稿に使用されたIPアドレスを事実上推認する判断枠組みを示した点で、実務上の意義を有する。